残置物モデル契約条項と見守りで単身高齢者の入居に備える賃貸経営のイメージ

「亡くなった後の片付けが不安」で断る前に──残置物モデル契約条項と見守り

残置物モデル契約条項と見守りで単身高齢者の入居に備える賃貸経営のイメージ

「入居の希望はありがたい。でも、もしこの部屋で亡くなられたら、その後の片付けは、いったい誰がするのか」──単身の高齢者から入居の申し込みを受けたとき、こう考えて手が止まってしまう賃貸オーナーは、決して少なくありません。

家賃を納めてくれる入居者としては歓迎したい。それでも、万一のあとに残る”後始末”を思い浮かべると、つい「今回は見送りましょうか」と口をついて出てしまう。この「亡くなった後の不安」こそ、高齢者の受け入れをためらわせる、根の深い理由のひとつです。

実はこの不安に対して、国はすでにひとつの答えを用意しています。「残置物の処理等に関するモデル契約条項」です。本記事では、この仕組みの中身と、それでも最後に残る”ひと押し”の正体を、賃貸経営の現場目線で読み解いていきます。

「後始末が不安」──オーナーが単身高齢者をためらう本当の理由

高齢者の入居に慎重な大家さんは、実際どのくらいいるのでしょうか。

全国の賃貸オーナー500名を対象にした調査では、高齢者を「受け入れていない」と答えた人が41.8%にのぼりました※3。4割を超える大家さんが、いまも高齢の入居希望者に首を縦に振れずにいる計算です。理由として繰り返し挙がるのが、家賃の滞納と並んで、「万一のときの対応」への不安でした。

見逃せないのは、同じ調査で、高齢者の受け入れに使える対策を「知らない」と答えた人が全体で35.0%、受け入れていないオーナーに限ると55.0%に達していた点です※3。つまり、断っている大家さんの半数以上は、そもそも打つ手があること自体を知らないまま、不安だけを抱えて「お断り」を続けている。これは、いささかもったいない状況ではないでしょうか。

大家さんが口にする「万一のとき」を、もう少しほどいてみます。多くの場合、それは亡くなること自体というより、その後に降りかかる作業への恐れです。荷物を誰が運び出すのか、原状回復や清掃の費用は誰が負担するのか、相続人とどう連絡を取るのか──答えの見えない問いが一度に押し寄せる。この”見通しの立たなさ”こそが、不安の正体だと言ってよいでしょう。裏を返せば、段取りさえ描ければ、不安の多くは輪郭を失っていきます。

賃貸オーナーが高齢者の入居をためらう理由と対策の認知度を示す図解イメージ

相続人が現れないと、片付けもできない──”死後の残置物”の厄介さ

では、なぜ「亡くなった後」がこれほど重い課題になるのでしょう。理由は、法律の仕組みにあります。

賃貸借契約は、入居者が亡くなっても自動では消えません。借りる権利(賃借権)は相続人に引き継がれ、部屋に残された家財(残置物)も相続人のものになります。だから大家さんは、勝手に契約を終わらせることも、荷物を処分することもできないのです。相続人と連絡がつき、話がまとまればよいのですが、単身高齢者の場合、その相続人がそもそも見当たらない、あるいは所在が分からない、というケースが起こり得ます※1

たとえば、遠方に暮らす甥や姪が唯一の相続人で、「関わりたくない」と相続放棄を選ぶ。あるいは連絡そのものがつかない。こうなると、大家さんは残された家財に手を触れることすらためらわれます。無断で処分すれば後々のトラブルになりかねず、かといって放置すれば部屋は塞がったまま。結局、正式な手続きを踏んで片をつけるまで、数か月単位で動けなくなることもあります。

相続人が現れなければ、契約はいつまでも宙に浮き、部屋には前の入居者の家財が残ったまま。次の募集もかけられません。空室のまま時間だけが過ぎていく──日々物件と向き合う現場からすれば、これは家賃が入らないだけでなく、精神的にも重くのしかかる事態です。「亡くなった後が不安」という一言の裏には、こうした行き止まりの構図が隠れています。

国が示した答え──「残置物の処理等に関するモデル契約条項」とは

この行き止まりを解くために作られたのが、冒頭で触れた「残置物の処理等に関するモデル契約条項」です。

策定したのは、法務省民事局と国土交通省。2021年6月7日に、単身高齢者(想定はおおむね60歳以上)の居住の安定を図る狙いで公表されました※1。中身は、入居者が生前のうちに、信頼できる受け手(受任者)とのあいだで結んでおく2つの委任契約です。

ひとつは、契約の解除に関するもの。入居者が亡くなった後に、受任者が代理で賃貸借契約を解除できるようにしておく取り決めです。もうひとつは、残置物の処理に関するもの。亡くなってから一定の期間が過ぎ、契約も終わった後に、受任者が家財を廃棄したり、指定された送り先へ渡したりできるようにするものです。金銭価値のあるものは、できるだけ換価するよう努める、という配慮も盛り込まれています※1。あらかじめ「これだけは捨てないでほしい」と形見の品を指定しておくこともできます。

ポイントは、受任者を誰にするかです。利害が対立しやすい大家さん自身ではなく、居住支援法人などの第三者が引き受けることが望ましいとされています※1。当事者ではない立場の人が間に入ることで、入居者も安心して契約を結べる仕組みになっているのです。

日本の木造住宅の縁側で穏やかに過ごす高齢女性の写真イメージ

”絵に描いた餅”にしないために──活用ガイドブックと実務の流れ

とはいえ、契約条項という言葉だけを見せられても、「で、実際どう使えばいいのか」と身構えてしまう大家さんは多いはずです。

その声に応えるかたちで、国土交通省は2024年6月5日、「残置物の処理等に関するモデル契約条項の活用ガイドブック」を公表しました※2。契約を結ぶところから、実際に残置物へ対応するところまでを、順を追って解説した実務者向けの手引きです。誰を受任者にすればよいか、どんな手順を踏むのか、といった現場の疑問に沿って整理されています。

実務でつまずきやすいのが、「では、受任者を誰に頼むのか」という一点です。親族に受けてもらえるとは限らず、大家さん自身が受けるのは利益相反の懸念から避けたい。そうなると、第三者として引き受けてくれる担い手を、どう見つけるかが現実の課題になります。ガイドブックは、この担い手の候補や、事務にかかる費用の考え方についても触れ、契約を”結んで終わり”にしないための道筋を示しています※2

背景には、制度の追い風もあります。近年は、単身高齢者などの入居を支える制度の枠組みも広がり、居住支援法人のように、受任者の受け皿となり得る存在も各地で育ちつつあります。「仕組みはあるのに使われない」を防ぐための下地が、少しずつ整ってきたと言えるでしょう。まずは、地域の居住支援法人や、付き合いのある管理会社に一度相談してみてください。話は、そこから動き出します。

それでも残る「気づけない」不安──生前の”見守り”が埋めるもの

ここまでの備えがあれば、亡くなった後の手続きは、ずいぶん見通しが立ちます。けれど、勘のいい大家さんはお気づきかもしれません。モデル契約条項が整えてくれるのは、あくまで「亡くなったと分かった後」の話だ、ということに。

大家さんが本当に恐れている事態──部屋の傷みや、大がかりな原状回復、残された家財の扱い──は、多くの場合、亡くなったこと自体ではなく、”発見の遅れ”から生まれます。誰にも気づかれないまま時間が過ぎるほど、後始末は重くなる。逆に言えば、早い段階で異変に気づけさえすれば、後始末はぐっと通常の範囲に収まります。契約条項が「片付け」を担うなら、”気づき”を担う相棒がもうひとつ要る。ここで見守りの話に戻ります。

そこで注目されているのが、CO2(呼吸)の変化から入居者の在・不在や安否を捉える見守りです。日伸貿易株式会社が手がける「デナリ・コネレーション」は、カメラも音声も一切使わず、部屋の空気の状態だけを見守ります。映像も音も記録しないため、入居者の心理的な負担が小さいのが持ち味です。工事もWi-Fiもいらず、コンセントに挿すだけで使い始められます。

そして何より、反応がないときに「お変わりありませんか」と一声かける、そのやりとり自体が、入居者にとっては”誰かに気にかけてもらえている”というゆるやかなつながりになります。監視ではなく、つながりとしての見守り。現場では、こうした一本の連絡が、入居者との関係をあたたかく保つ役目も果たしています。空気の変化を手がかりに、在宅中の生活リズムや外出の有無をやわらかく把握できる可能性もあります。単なる安否確認にとどまらない使い方が期待されているのです。

コンセントに挿すCO2見守り機器のある居室で穏やかに過ごす高齢男性の写真イメージ

死後の手続きを整える契約条項と、生前の異変に気づく見守り。この2つがそろって初めて、「亡くなった後が不安」というオーナーの気がかりは、現実的に手当てされるのです。片方だけでは、どうしても隙間が残ります。

「断る経営」から「備えて受け入れる経営」へ

見守りと備えの仕組みを持つことは、入居者だけでなく、大家さんや管理会社にとっても確かな利点があります。

早い段階で異変に気づければ、被害が大きくなる前に手を打ちやすくなります。発見が遅れて物件が傷む事態や、担当者がつらい現場に立ち会う負担も避けやすくなる。そして残置物や契約の後始末も、あらかじめ結んだ契約条項に沿って淡々と進められます。「何かあったら、どうしよう」という漠然とした恐れが、「何かあっても、こう動ける」という段取りに変わる。この安心こそが、これまで「お断り」せざるを得なかった層への扉を開きます。

それは入居対象の広がり、空室期間の短縮、そして収益の底上げにつながります。リスクを恐れて間口を狭める経営から、リスクに備えて機会を広げる経営へ。備えは”守り”であると同時に、”攻め”の一手にもなるのです。

「後始末が不安だから」と間口を狭め続ける時代は、そろそろ手放してもいいのかもしれません。備えがあれば、受け入れられる。次の一室を、あなたはどちらの経営で埋めますか。

出典一覧

  • ※1 法務省民事局・国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)の策定について」(2021年6月7日策定)|発表ページ
  • ※2 国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項の活用ガイドブック ~単身高齢者の賃貸住宅への円滑な入居のために~」(2024年6月5日)|発表ページ
  • ※3 株式会社R65「高齢者向け賃貸に関する実態調査(賃貸オーナー向け)」(2024年4月9日公表・全国の賃貸オーナー500名)|発表ページ

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