認知9割、導入2割──賃貸現場が“見守り”に踏み切れない3つの壁

「見守りサービス? もちろん知っていますよ。ただ、うちの物件に入れるとなると、話は別でね」──。高齢入居者への向き合い方を尋ねると、管理会社の方からはこんな声が返ってきます。関心はある。必要性も感じている。それでも、導入には踏み切れない。
2026年に発表されたアットホームの調査は、この“わかっているのに動けない”賃貸現場の実情を、はっきりと数字で示しました。見守りサービスを知っている管理会社は9割。ところが、実際に導入している物件があると答えたのは2割に届きません※1。
この記事では、認知と導入のあいだに横たわる3つの壁──「お金」「手間」「入居者の抵抗感」──を一つずつほどきながら、導入がまだ2割にとどまる今だからこそ生まれる、賃貸経営上のチャンスについて考えます。
2社に1社が「高齢を理由に断った」──最新調査が映す現場のリアル
まず、調査の中身から見ていきましょう。アットホームが2026年2月、全国の賃貸住宅管理会社632社の経営者層に行った調査では、直近1年で高齢を理由に入居を断ったことが「ある」と答えた会社が49.2%にのぼりました※1。およそ2社に1社です。
過去のコラムでも繰り返しお伝えしてきたとおり、この数字は現場の冷たさを表すものではありません。同じ調査で、単身高齢者の入居について課題と感じることを尋ねると、最も多かった答えは「孤独死」で84.0%。事故物件化や残置物の処理がそれに続きます※1。つまり、断る判断のほとんどは「亡くなった後、自分たちが対応しきれるか」という不安の裏返しなのです。
注目したいのは、この不安への“答え”がすでに市場に存在している、という点です。それが見守りサービスです。ところが──。
「知っている」9割、「導入している」2割──その差は何を語るか
同じ調査で、見守りサービスを知っている管理会社は90.1%にのぼりました※1。業界での認知は、ほぼ行き渡ったと言っていいでしょう。一方で、実際に導入している物件があると答えたのは19.5%。検討まで含めても4割弱にとどまります※1。
9割が知っていて、2割しか入れていない。この差は、サービスへの無関心では説明がつきません。実際、「条件次第で導入したい」と答えた会社は49.1%と半数に迫ります※1。やる気がないのではなく、条件が揃っていない──それがこの数字の読み方ではないでしょうか。
では、その「条件」とは何か。導入に踏み切れない理由として調査に挙がったのは、「オーナーへの費用負担の交渉が難しい」「町内会や自治会の見守りでまかなえている」といった声でした※1。日々の管理業務に追われる現場では、月々の費用を誰が持つのかをオーナー一人ひとりに説明して回り、機器の設置や入居者への案内まで段取りする余裕は、正直なところ多くありません。壁は大きく3つ。「お金」と「手間」、そして入居者の「抵抗感」です。
第一発見者の半数は“職業上の関係者”──現場はすでに最前線にいる
壁のほどき方に入る前に、もう一つだけ、目をそらせないデータを共有させてください。
日本少額短期保険協会が2025年12月に公表した「第10回孤独死現状レポート」によると、賃貸住宅で亡くなった単身入居者が発見されるまでの日数は、平均で19日※2。15日以上たってから見つかるケースも、男性では3人に1人以上(35.7%)を占めます※2。
そして第一発見者の内訳です。最も多かったのは親族ではなく、不動産管理会社やオーナーなどの「管理」で23.6%。行政や見守りサービスなどの「福祉」、警察まで含めた“職業上の関係者”が全体の50.4%と半数を超えました※2。
この数字が示す現実は重いものです。見守りサービスを導入するかどうか迷っているあいだも、管理会社とオーナーは、すでに「最初に気づく人」の役割を事実上担わされている。導入の検討とは、ゼロから新しい仕事を増やすかどうかの話ではなく、いま偶然と巡回頼みで果たしている役割を、仕組みに置き換えるかどうかの話なのです。
先ほどの「町内会や自治会の見守りでまかなえている」という声も、裏を返せば、地域のつながりがまだ生きている物件だからこそ言えることです。かつて「向こう三軒両隣」が自然に果たしていた見守りは、都市部を中心に細りつつあります。第一発見者の半数が職業上の関係者という数字は、その空白を、住まいに関わる誰かが埋めざるを得なくなった現実の表れでもあります。
費用の面でも同じことが言えます。同レポートでは、孤独死が起きた居室の原状回復にかかった費用は2024年度の単年データで平均約61万円。遺品整理に約27万円、家賃保証の支払いも平均約39万円と報告されています※2。発見が遅れるほど損害は膨らみます。「発見までの19日」を縮めることは、入居者の尊厳を守ると同時に、経営リスクを直接減らす取り組みでもあるわけです。

壁のほどき方①「お金」──自治体の補助が動き始めた
ここからは、3つの壁を順にほどいていきます。まずは「お金」です。
流れを変えつつあるのが、自治体の後押しです。たとえば横浜市は、セーフティネット住宅や居住サポート住宅に入居する単身高齢者が使う見守りサービスを対象に、初期費用の半額(上限5,000円)と月額利用料の半額(上限1,000円・月/戸)を補助する事業を始めています※3。センサーなどで無理なく毎日見守れること、異常時に管理者や親族へ必ず連絡が届くことが要件で、まさに機器による見守りを正面から想定した制度です。
背景には、2025年10月に施行された改正住宅セーフティネット法があります※4。この改正で生まれた「居住サポート住宅」では、機器や訪問による安否確認、つまり“見守り”が認定の要件に据えられました。国の制度が見守りを正面から位置づけたことで、自治体の支援も具体化し始めています。「見守りの費用は誰が持つのか」という問いに、公的な支え手が加わりつつあるのです。
そもそも金額の桁を比べてみてください。横浜市の補助は、月額利用料の半額・上限1,000円という設計でした※3。月額2,000円ほどの見守りサービスなら半分を公費でまかなえる計算で、制度が想定する見守りの月々の負担は、その程度の水準だということです。一方、万一の際の原状回復は平均約61万円※2。オーナーへの提案は「新たなコスト」のお願いではなく、「61万円のリスクに月々わずかな金額で備える保険」として語れるはずです。
もちろん、すべての物件が補助の対象になるわけではありません。それでも、「行政がここまで見守りを後押しし始めた」という事実そのものが、オーナーとの会話を変えます。「うちの市にも似た制度がないか調べてみます」から始まる相談は、費用の話を“負担のお願い”から“使える制度の紹介”へと変えてくれるからです。
壁のほどき方②「手間」と③「抵抗感」──コンセントに挿すだけ、という答え
次に「手間」と「入居者の抵抗感」。実はこの2つの壁は、機器選びで同時にほどけます。
手間の正体は、工事です。配線や取り付けの工事が要る機器は、入居中の部屋では日程調整だけでひと仕事ですし、Wi-Fi環境が前提の機器は、通信環境のない高齢者の部屋には導入しにくい。管理会社が二の足を踏むのも無理はありません。
もう一つの抵抗感は、入居者の心理です。「カメラで見られるのは、監視されているようで嫌だ」という声は根強く、せっかくオーナーが費用を負担しても、住む人が受け入れてくれなければ意味がありません。
私たちが提供する「デナリ・コネレーション」は、この2つの壁を最初から想定して設計された見守りです。使うのはCO₂(呼吸)センサー。人が呼吸することで生まれる部屋の空気のわずかな変化から、在・不在や安否を見守ります。カメラも音声も一切使わず、映像も音も記録しません。見られたくない暮らしぶりには、そもそも触れない仕組みです。そして設置は、工事もWi-Fiも不要で、コンセントに挿すだけ。入居中の部屋でも、その日のうちに見守りを始められます。
さらに、反応がないときには「お出かけですか」「お加減はいかがですか」と一声かける──その連絡のやりとり自体が、入居者にとって“気にかけてもらえている”というゆるやかなつながりになります。監視ではなく、つながりとしての見守り。抵抗感の壁は、機器の選び方と声のかけ方で、ここまで低くできます。

導入2割の今こそ、「見守れる経営」は選ばれる
最後に、視点を経営に戻しましょう。
「条件次第で導入したい」が49.1%※1──この数字は、見守りサービスの導入がこれから一気に進む可能性を示しています。裏を返せば、導入済みがまだ2割の今は、「見守りのある物件」がはっきりと差別化になる時期だということです。
高齢の入居希望者やそのご家族の立場で想像してみてください。「高齢の方はちょっと……」と渋られる物件が続くなかで、「うちは見守りの仕組みがあるので、安心してどうぞ」と言ってくれる物件に出会えたら。選ばれる理由としてこれほど分かりやすいものはありません。断る理由を一つ減らすことは、入居対象を広げ、空室期間を縮めることに直結します。
しかも、高齢の入居者は“長く住んでくれる”借り手でもあります。同じアットホームの調査で60歳以上の賃貸入居者288人に尋ねたところ、住み替えに消極的な人は48.6%と半数近くにのぼりました※1。理由の上位は、引越し資金の負担、そして今の住まいと地域への愛着です。頻繁な入退去がなく、部屋を丁寧に使い、地域に根を張って暮らす──空室と原状回復に悩む経営にとって、これは望ましい入居者像そのものではないでしょうか。見守りという安心の土台さえあれば、の話ですが。
そして、この選択はいずれ標準になっていきます。国の制度は見守りを前提に動き始め※4、自治体の補助も広がりつつある※3。5年後、「まだ見守りがない物件」と「当たり前にある物件」のどちらが選ばれるようになるか。その行方は、ここまで見てきた数字の流れがすでに物語っています。

「知ってはいるんだけどね」で止まっていた見守りを、動かすための条件は揃い始めています。認知9割の時代に、導入する2割の側へ──先に回った人から、選ばれていくのではないでしょうか。
出典一覧
- ※1 アットホーム株式会社「高齢者の賃貸居住に関する調査」(2026年)|発表ページ
- ※2 日本少額短期保険協会 孤独死対策委員会「第10回孤独死現状レポート」(2025年12月)|発表ページ
- ※3 横浜市「セーフティネット住宅等見守りサービス補助事業」(2026年)|事業ページ
- ※4 国土交通省「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律について」(令和7年10月1日施行)|制度ページ