「高齢者はお断り」を続けますか──法改正と見守りをテーマにしたコラムのアイキャッチ

「高齢者はお断り」を続けますか──法改正が促す“見守り前提”の賃貸経営

「高齢者はお断り」を続けますか──法改正と見守りをテーマにしたコラムのアイキャッチ

「高齢の単身者は、正直まだ受け入れづらい」「空室は埋めたい。けれど、万一のことを考えると、どうしても手が止まってしまう」──。賃貸オーナーや管理会社の方から、私たちは今もこうした本音を聞きます。

誤解しないでいただきたいのは、その多くが「高齢者が嫌いだから断る」わけではない、という点です。むしろ「何かあったとき、自分たちが責任を持って対応しきれるだろうか」という不安の裏返しなのです。とはいえ、日本の高齢化と単身化は、貸す側の心の準備が整うのを待ってはくれません。

その状況に、一つの現実的な答えを示したのが、2025年10月に施行された改正住宅セーフティネット法です※1。この記事では、新しく生まれた「居住サポート住宅」という仕組みと、その中心に据えられた“見守り”という考え方、そしてオーナー・管理会社がこれからどう向き合えるのかを、順を追ってお伝えします。

大家の約4割が「受け入れていない」──それは冷たさではなく、不安

ある調査では、高齢者を「受け入れていない」と答えた賃貸オーナーが約4割にのぼりました※2。数字だけを見ると、高齢者に冷たい業界のように映るかもしれません。けれど、現場の声に耳を澄ますと、その印象は少し変わります。

オーナーがためらう最大の理由は、居室内で入居者が亡くなる事態、いわゆる孤独死への不安です。国の資料でも、高齢者の入居に慎重になる背景として、居室内での死亡事故への懸念が理由の大半を占めると指摘されています※1。発見が遅れれば原状回復に大きな費用がかかり、次の入居希望者への説明が必要になることもある。残された家財の処分に頭を悩ませる場面もあります。

日々入居者と向き合う管理の現場では、こうした「もしも」が決して他人事ではありません。断るという判断は、冷たさからではなく、「一人で抱えきれる自信がない」という誠実さの裏返しであることも多いのです。問題は、その不安をオーナーが一人で背負い込むしかない、という構造そのものにありました。

たとえば、家賃の支払いに不安がなく、人柄も申し分ない高齢の申込者であっても、「体調を崩して連絡が取れなくなったとき、最初に気づくのは誰なのか」が見えないと、貸主はどうしても慎重になります。頼れる親族が近くにいない単身の方なら、なおさらです。裏を返せば、その“最初に気づく役割”を誰かが担ってくれさえすれば、受け入れのハードルはぐっと下がる、ということでもあります。

それでも“断り続ける経営”は、続けにくくなる

とはいえ、不安を理由にずっと断り続けられるかというと、話はそう単純ではありません。

内閣府の令和8年版高齢社会白書によると、2025年10月時点の高齢化率は29.4%に達しました※3。およそ3.4人に1人が65歳以上という時代です。配偶者に先立たれたり、子どもが遠方で暮らしていたりと、単身で老後を送る人はこれからも増えていきます。賃貸住宅を必要とする高齢者の層は、確実に厚みを増していくのです。

住まいを探す側の苦労も、私たちが想像する以上に深刻です。R65の実態調査では、高齢者のおよそ4人に1人以上が、年齢を理由に入居を断られた経験を持つと報告されています※2。借りたい人がこれだけいて、貸せる部屋は限られている。この需要と供給のねじれは、逆に言えば、受け入れる側に回ったオーナーにとっての空室対策の余地でもあります。断り続ける経営は、これから先、じわじわと空室リスクとなって返ってくるかもしれません。

これから賃貸市場に出てくる借り手の顔ぶれは、静かに変わりつつあります。若い単身者の数が細っていく一方で、部屋を必要とする高齢の単身者は増えていく。若年層だけを当て込んだ空室対策には、いずれ限界が見えてきます。高齢の入居希望者にきちんと向き合えるかどうかが、これからの賃貸経営の分かれ目になっていくはずです。

増え続ける単身高齢者と、受け入れる賃貸住宅のギャップを表した図解イラスト

2025年秋、国が用意した「居住サポート住宅」

オーナーの不安と、高齢者の住まい不足。その両方に橋を架けようとするのが、2025年10月1日に施行された改正住宅セーフティネット法です※1

正式名称は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律」といいます。名前は少し長いのですが、狙いは明快です。高齢者や低所得者など、住まいの確保に配慮が必要な人が安心して部屋を借りられるようにすること。そしてその裏側で、貸すオーナーの不安も軽くすることにあります。

この改正で新しく生まれたのが「居住サポート住宅」という枠組みです。居住支援法人などが大家と連携し、入居者の安否確認や見守り、困りごとが起きたときに相談窓口へつなぐといったサポートを担います。住宅そのものを自治体が認定する形をとり、認定制度は2025年10月から動き始めました※4。オーナーが単身高齢者を受け入れるとき、これまで一人で背負っていた「もしも」への備えを、仕組みとして分かち合えるようになったのです。

では、オーナーが何もかも自分で背負うのかというと、そうではありません。居住サポート住宅では、見守りや相談対応といった実務を居住支援法人などが担い、オーナーは住まいを提供する側に回ります。役割がはっきり分かれることで、これまで貸主一人にのしかかっていた「もしも」の重さが、関わる人たちの間で分けられていくのです。

国が“見守り”を要件にした、という事実

ここで注目したいのが、居住サポート住宅に求められるサポートの中身です。国はその中心に、はっきりと“見守り”を据えました。

認定を受けるための要件では、入居者の安否確認について、常時作動して異常を検知する通信機器を設けるか、あるいは1日に1回以上の訪問などで確認することが求められます※4。この通信機器には、センサーやスマートメーター、IoT家電といったICT(情報通信技術)の活用が想定されています。加えて、月に1回以上は訪問などで入居者の心身や暮らしの状況を確かめる見守りも要件です※4

見守りといっても、四六時中、誰かが室内を監視するわけではありません。ふだんは機器が静かに安否を確かめ、生活のリズムに気になる変化があったときだけ、人が動く。「ふだんは邪魔をせず、いざというときに気づける」というバランスこそ、入居者にとっても貸主にとっても無理のない見守りの形ではないでしょうか。

言い換えれば、「何かあってから動く」のではなく「異変の兆しに早く気づく」ことを、国が制度として求め始めたわけです。かつては向こう三軒両隣が自然に果たしていた見守りの役割を、これからは意識して仕組みとして持とう──改正法の底に流れているのは、そうした発想の切り替えだと私たちは受け止めています。

木造住宅の縁側で穏やかに過ごす80代の男性の写真イメージ

「監視」ではなく「気にかける」──デナリ・コネレーションという見守りの形

とはいえ、見守りと聞くと、入居者側から「監視されているようで落ち着かない」という声が上がりがちです。カメラや音声で室内を捉える機器には、心理的な抵抗を覚える人が少なくありません。せっかく制度が見守りを後押ししても、住む人が身構えてしまっては本末転倒になってしまいます。

そこで一つの選択肢になるのが、CO₂(呼吸)センサーで人の在・不在や安否を見守る「デナリ・コネレーション」です。カメラも音声も一切使わず、部屋の空気の状態だけを見ています。映像も音も記録しないため、入居者にとっての心理的な負担が小さいのが持ち味です。工事もWi-Fiもいらず、コンセントに挿すだけで使い始められます。制度が想定するICTを使った安否確認という考え方を、住む人が受け入れやすいかたちで届けられる。そこにこの仕組みの意味があります。

CO₂センサーが捉えているのは、人が呼吸することで生まれる、部屋の空気のわずかな変化です。在宅しているのか、外出しているのか。いつもの生活リズムが保たれているのか。姿を映さなくても、暮らしの“いつもと違う”を、空気の動きから静かに感じ取れます。プライバシーを守りながら異変の兆しに気づける──ここが、映像に頼る見守りとの大きな違いです。

そして見逃せないのが、反応がないときに連絡を取り、「お出かけですか」「お加減はいかがですか」と一声かける、その先のやりとりです。見守りは、使い方しだいで“誰かに気にかけてもらえている”という、ゆるやかなつながりにもなり得ます。監視ではなく、つながりとしての見守り。それは、国が制度で目指した方向とも、静かに重なっているように思います。

木造住宅のコンセントに設置されたCO2見守りセンサーと、和室でくつろぐ高齢女性の写真イメージ

「断る経営」から「見守れる経営」へ

見守りの仕組みを持つことは、入居者の安心だけでなく、オーナーや管理会社にとっても実利があります。

万一のとき、早い段階で異変に気づければ、原状回復の負担や、担当者がつらい現場に直面する事態を避けやすくなります。運用の現場では、こうした早めの気づきが最悪の事態を防いだ、という声も聞かれます。そして何より、見守りという安心の土台があれば、これまで「お断り」せざるを得なかった単身高齢者を、受け入れる側に回れるようになります。

見守りの仕組みは、入居後の日々にも効いてきます。体調のちょっとした変化に早めに気づければ、必要なときに家族や支援者へ連絡を回せます。入居者にとっては「見られている」ではなく「気にかけてもらえている」という安心に、貸主にとっては「何かあっても初動を取れる」という備えになる。ひとつの仕組みが、住む人と貸す人の双方の安心を同時に支えてくれるわけです。

それは入居対象を広げ、空室の期間を縮め、収益を底上げすることにつながっていきます。リスクを恐れて間口を狭める経営から、リスクを仕組みで管理して機会を広げる経営へ。今回の法改正は、その背中を押す制度だと言えます。高齢者の受け入れは、もはや守りの妥協ではなく、“攻め”の一手にもなり得るのです。

「高齢者はお断り」と書き続ける経営を、この先も続けますか。それとも、見守れる仕組みを手にしたうえで、受け入れる側に回りますか。断るしかなかった時代は、少しずつ終わりに近づいています。

出典一覧

  • ※1 国土交通省「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律について」(令和6年法律第43号/令和7年10月1日施行)|発表ページ
  • ※2 株式会社R65「高齢者向け賃貸に関する実態調査(賃貸オーナー向け)」ほか高齢者の住まいに関する実態調査|発表ページ
  • ※3 内閣府「令和8年版高齢社会白書」(2026年6月公表・2025年10月現在の高齢化率29.4%)|発表ページ
  • ※4 厚生労働省「居住サポート住宅情報提供システムの公開(居住サポート住宅認定制度)」(令和7年10月1日開始)|発表ページ

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