熱中症は部屋の中で起きている──夏の室内熱中症と見守りをテーマにしたコラムのアイキャッチ

「熱中症は屋外で起きる」は思い込み?──搬送10万人時代の“室内リスク”と夏の見守り

熱中症は部屋の中で起きている──夏の室内熱中症と見守りをテーマにしたコラムのアイキャッチ

「夏になると、単身の高齢入居者のことが気になって仕方がない」「エアコンは付けてあるから、大丈夫だと思いたい」──。猛暑が当たり前になったいま、賃貸の現場からはこんな声が聞こえてきます。

実は、熱中症はもう“炎天下の事故”ではありません。救急搬送の発生場所で最も多いのは、屋外ではなく「住居」。つまり、入居者が暮らすお部屋の中です。

本記事では、2025年夏の最新データをもとに、室内熱中症の実態と、賃貸オーナー・管理会社にできる夏の備えを考えます。

救急搬送10万人──熱中症は「屋外の事故」ではなくなった

まず、直近の夏に何が起きていたかを数字で押さえます。

消防庁のまとめによると、2025年5月から9月の熱中症による救急搬送は、全国で10万510人。統計を取り始めた2008年以降で、最も多い人数を更新しました※1。そのうち65歳以上の高齢者は5万7,433人と、全体の57.1%を占めています。初診の時点で入院が必要な「中等症以上」と診断された方も約36%にのぼり、決して軽い症状では済んでいません。

そして見逃せないのが、発生場所の内訳です。最も多いのは「住居」で約38%。道路(約20%)や仕事場(約11%)を大きく引き離し、住まいの中こそが熱中症の最多発生場所になっています※1

熱中症の多くが住まいの中で起きていることを表した家の断面図解イラスト

しかも搬送は5月から始まり、9月まで続きます。夏が長くなったぶん、警戒すべき期間も延びました。「日中の外出さえ控えてもらえば安心」という感覚は、残念ながらもう実態と合っていないのです。

「エアコンはあるのに、使われない」──室内で亡くなる方の実像

では、部屋の中でいったい何が起きているのでしょうか。

夏の木造住宅の和室でうちわを手に過ごす70代の女性の写真イメージ

手がかりになる研究があります。東京大学と東京都監察医務院の研究チームが2025年6月に公表した分析で、東京23区で2013年から2023年までに熱中症で亡くなった1,447例を調べたものです※2

亡くなった方の約9割にあたる1,295例は、屋外ではなく室内で見つかっていました。内訳を見ると、「エアコンがオフだった」が581例、「そもそも設置されていない」が381例、「故障していた」が129例。そして「エアコンはついていた」のに亡くなった方も84例ありました。設定温度が高すぎた、送風のままだった──そんな“機械はあっても正しく働いていなかった”ケースが含まれるとみられます。

こうした状況を踏まえて研究チームは、室内で亡くなった方の16.4%にあたる213例について、「エアコンを適切に使いこなせていなかったことが死亡につながった」と推測しています※2。しかも、こうした事例の約8割は一人暮らしや高齢者世帯だったといいます。

高齢になると、暑さやのどの渇きを感じにくくなることが知られています。「電気代がもったいないから」と冷房を我慢する方も少なくありません。つまり分かれ目は、エアコンという設備があるかどうかではなく、“その日、ちゃんと使えているか”。そして、その異変に周りの誰かが気づけるかどうかです。

なぜ賃貸オーナー・管理会社に関わる話なのか

ここで、賃貸経営の話に戻ります。

厚生労働省が2025年に公表した国民生活基礎調査では、単身高齢者世帯は903万世帯と過去最多を更新しました※3。入居者に占めるおひとり暮らしの高齢者の割合は、これからも増え続けていきます。

一方で、現場の不安も根強いままです。不動産情報サービスのアットホームが2026年2月に全国632社の賃貸管理会社へ行った調査では、直近1年で高齢を理由に入居をお断りした経験のある会社が49.2%。孤独死への不安を挙げた会社は84.0%にのぼり、事故物件になることへの懸念(38.4%)や残置物処理への不安(37.0%)が続きます※4

夏の室内熱中症は、いわばこの「孤独死リスク」の夏版です。発見が遅れれば入居者の命に関わることはもちろん、原状回復や告知への対応、次の募集への影響と、経営面の負担も連鎖していきます。だからこそ、「不安だから受け入れない」ではなく、「早く気づける部屋にして受け入れる」への切り替えが、現実的な選択肢になってきました。

今日からできる夏の備え──費用をかけない工夫から

見守り機器の話に入る前に、まず費用をかけずにできることを整理します。

先ほどの研究で室内死亡の内訳を思い出してください。「設置なし」が381例、「故障」が129例。つまり、設備そのものの点検だけでも防げる余地があるということです。そのうえで、次のような工夫は今日から始められます。

  • 入居時・更新時・設備点検のタイミングに、エアコンの動作確認を組み込む(「設置なし」「故障」への対策)
  • 夏前に「熱中症予防のご案内」を全戸に配り、あわせて緊急連絡先やご家族の連絡先の最新化をお願いする
  • 巡回や検針、共用部の清掃の動線に、「顔を見たらひと声かける」を足す

かつては「向こう三軒両隣」の近所付き合いが、自然な見守りの役割を果たしていました。その代わりを、管理の日常業務に少しだけ組み込むイメージです。

ただし、こうした工夫には限界もあります。訪問や声かけは「誰かが行った日」しか機能しません。閉め切った部屋の中で、誰にも会わない日に起きる異変──そこを補うのが、機器による見守りです。

「気づける部屋」にする──見守りサービスという選択肢

サービスとしての「見守り」は、実はまだ普及の途上にあります。アットホームの同じ調査では、見守りサービスを「知っている」管理会社は90.1%。ところが、実際に導入している物件があると答えたのは19.5%にとどまりました※4。認知と導入の間に、大きな溝が横たわっています。

背景には「オーナーへの費用負担の相談が難しい」といった事情があるようです。ただ、見守りの手段はこの数年で大きく広がりました。スタッフが定期的に訪ねる訪問型。電気やガスの使用状況から生活リズムを推測するライフライン型。そして、お部屋に置いたセンサーで安否を確かめるセンサー型です。

どの方法にも一長一短があり、“これさえ入れれば正解”という機器はまだ存在しません。大切なのは、入居者の暮らしぶりと物件の条件に合わせて、「異変が起きてから気づくまでの時間」をどれだけ縮められるか、という視点です。

CO2で“生活の気配”を見守る──デナリ・コネレーションの場合

私たちが提供する「デナリ・コネレーション」は、CO2(呼吸)によって人の在・不在や安否を判定する見守りセンサーです。カメラも音声も一切使わず、映像も音も記録しません。「監視されているようで嫌だ」という入居者の心理的な抵抗を抑えられるのが特長です。工事もWi-Fiも不要で、コンセントに挿すだけ。いまある物件に、夏に間に合うかたちで後付けできます。

木造住宅のコンセントに設置されたCO2見守りセンサーと、和室でくつろぐ80代の男性の写真イメージ

夏場にこの仕組みが力を発揮するのは、「在室しているはずなのに、いつもの気配と違う」に気づけることです。反応が乏しいときには、管理会社やご家族が電話やインターホンでひと声かけます。「お変わりありませんか」「暑くなってきましたが、エアコンは動いていますか」──そのやりとりが、閉め切った部屋で静かに進む重症化を防ぐきっかけになり得ます。

私たちも日々、入居者さまやご家族、管理会社の皆さまと接するなかで、「気にかけてもらえている」という安心感そのものが暮らしの支えになる場面を何度も見てきました。見守りの現場では、早めの声かけが“最悪の事態”の回避につながった例も実際に報告されています。見守りは単なる安否確認の道具ではなく、入居者との緩やかなつながりでもある──前回の記事(「高齢者の入居は怖い」は本当か?)でご紹介した考え方は、夏にこそ生きてきます。

「夏を越せる物件」は、選ばれる物件になる

国の制度も、同じ方向に動き始めています。2025年10月に施行された改正住宅セーフティネット法では、「居住サポート住宅」の認定制度が始まりました※5。ICTを使った安否確認と、支援法人などによる見守り・相談対応を組み合わせた賃貸住宅を、国がお墨付きを与えて後押しする仕組みです。見守りのある賃貸住宅は、特別な取り組みではなく“標準の選択肢”になりつつあります。

オーナーにとっての意味は、リスク対策だけではありません。903万に達した単身高齢者世帯は、見方を変えれば「見守りさえあれば、長く安心して住んでいただける入居者層」です。夏の暑さも、冬場のヒートショックも、1年を通じて気づける体制があること。そうした物件は、入居者本人にもご家族にも、そして仲介する管理会社にも選ばれやすくなります。

「怖いから断る」経営から、「備えて受け入れる」経営へ。夏は、その一歩を踏み出すのにいちばん説得力のある季節です。

この夏、入居者の無事を運まかせにしない仕組みを、一部屋からでも始めてみませんか。

出典一覧

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