高齢者入居を安全な収益源に変える、関係者全員が報われる経営戦略
「リスクがあるから貸さない」から、「仕組みがあるから受け入れる」へ。
「これからは高齢者の入居を受け入れなければ、空室が埋まらなくなる」。賃貸管理に携わる経営者なら、誰しもこの現実に気づいているはずです。
地域の人口構造が大きく変わり、単身高齢者の割合が増加するのに伴い、時代に合わせて「高齢者の入居を安全に受け入れられる態勢を今から整えること」こそが、これからの賃貸管理経営に問われている重要なテーマとなっています。
この問題に適切な対策を講じれば、関係者全員が利益を得られる道が開けます。
- 入居者:拒否されず、安心して暮らせる住まい
- オーナー:空室期間を短縮し、資産価値を守る備え
- 管理会社:現場を守りながら、持続的な収益を得る仕組み
- 行政:地域で暮らし続けられる住まいの選択肢
本記事では、現場が動けない構造的な理由を紐解きながら、現場・法務・金銭の3つの負担を整理し、高齢者受け入れを持続可能な経営戦略へと変える道筋を考えます。
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目次
1. はじめに:誰もが知っている「臨界点」と、動けない現場
「単身高齢者の入居を受け入れなければ、今後の空室対策は立ち行かなくなる」。賃貸管理業界に関わる経営者や実務層であれば、誰もがこの事実に気づいています。我が国の単身高齢者世帯は急速に増加の一途をたどり、地方都市のみならず首都圏においても、若年層の奪い合いによる空室期間の長期化が明らかな傾向として表れています。
しかし、各種の調査データが示す現実は極めて厳しいものです。国土交通省の各種調査や関連団体の実態調査によれば、単身高齢者の入居に対して拒否感や不安を抱くオーナー・管理会社は約7割に達しています。頭では「高齢者を受け入れなければならない」と分かっていながら、実際の現場では「70歳以上は原則お断り」「保証人がいても難色を示される」という運用が今なお続いています。

市場の需要と供給の間には、巨大な断絶が存在しています。この断絶は、単なる「オーナーの偏見」や「現場の意識不足」といった精神論で片付けられるものではありません。そこには、現在の賃貸管理業界が構造的に抱える深い課題と、現場が直面している切実なリアルが存在します。
2. なぜ高齢者受け入れは進まないのか——現場とオーナーが抱える3つの構造的リアル
なぜ、需要が存在すると分かっていながら、現場は一歩を踏み出せないのでしょうか。そこには3つの大きなハードルが存在します。
① オーナー説得の窮地と「丸腰の営業現場」
管理会社の担当者が高齢の入居希望者を受け入れようとするとき、最初に直面するのがオーナーへの説明責任です。「万が一、室内で孤独死が発生したら事故物件になるのではないか」「家賃下落や原状回復費用はどうするのか」というオーナーからの当然の問いに対し、現場担当者が手元に提示できる「安全の根拠」や「事故物件化を防ぐ運用の裏付け」は極めて乏しいのが実状です。根拠のない精神論でオーナーを説得することはできず、結果として「お断りする」という選択にならざるを得ません。

② リスクとリターンの非対称性と「現場の防衛本能」
1戸の賃貸管理によって得られる管理手数料は、月額わずか数千円程度です。一方で、万が一室内で事故や死亡が発生した場合、現場担当者が背負う業務的・精神的負担は甚大です。警察の立ち会い、遺族対応、近隣からの苦情処理、特殊清掃の手配など、通常業務を大幅に圧迫する泥臭い対応が重くのしかかります。どれだけ管理戸数を増やしても、事故が1件起きるだけでも現場を大きく圧迫しかねません。現場担当者が高齢者受け入れに慎重になるのは、サボりや事なかれ主義ではなく、自身の業務を守るための「合理的な防衛本能」と言えます。
③ 孤独死そのものよりも怖い「グレーゾーンの対応」
現場が真に恐怖を感じているのは、明確な「死」そのものよりも、むしろ「連絡が取れない」「入院した」「部屋で倒れているかもしれない」といったグレーゾーンの状態です。「アラートが出たが電話に出ない」「休日の夜間に異変の可能性が浮上した」といった際、誰が現地へ行き、どの権限で室内を確認するのか。明確な運用ルールと対応主体が存在しないことが、現場を疲弊させる最大の要因となっています。
3. 「死の恐怖」ではなく「運用の不在」が市場を止めている
オーナーや管理会社が恐れているものの本質を分解すると、それは「入居者が高齢であること」や「人が亡くなること」そのものではありません。
国土交通省の「人の死の告知に関するガイドライン」においても、自然死や日常の不慮の死については、原則として告知義務の対象外とされています。しかし、発見が遅れて特殊清掃や大規模リフォームが必要となった場合には告知が必要となる場合があり、物件の資産価値に大きな悪影響を及ぼします。※1
つまり、分水嶺は「死亡したかどうか」ではなく、「異変から発見までにどれだけの時間がかかったか」にあります。リスクの正体は「人間の死」ではなく、異変を捉え、確認し、事後処理を行う「運用の不在」に他なりません。
| 懸念されるリスク | リスクの本質 | 真の原因(何が不足しているか) |
|---|---|---|
| 事故物件化・家賃下落 | 発見が大幅に遅れることによる室内の損壊 | 早期発見(異変検知と早期確認)の仕組みの不在 |
| 室内の長期ロック・残置物 | 相続人捜索や契約解除手続きの停滞 | 死後事務委任契約・法的枠組みの不備 |
| 原状回復・清掃費用の負担 | 突発的な経済的損害の発生 | 孤独死保険・費用補償の未組み込み |
4. 「個人の頑張り」から「組織の仕組み」へ——現場に与えるべき3つの武器
この課題を解決するために「もっと高齢者に優しくしよう」「社会貢献のためにリスクを取ろう」と思うだけでは、状況は改善しません。必要なのは、現場担当者が丸腰で戦うのをやめ、組織として「安全に貸せる仕組み(インフラ)」を構築することです。
高齢者の受け入れを進めるには、「現場の負担」「法的な手続きの負担」「金銭的な負担」の3つに対処するインフラを、パッケージとして現場に提供する必要があります。

① 現場負担に対処する:安否確認と初期対応の外部化(BPO)
日常のアラート監視や一次電話確認を、専門組織へ委託する。これにより、担当者が一人で通知や確認を抱え込む負担を減らします。
② 法的負担に対処する:死後事務委任の整備
万が一の際にも、相続人捜索で部屋が長期間ロックされないよう、事前に死後事務委任(賃貸借契約の解除および残置物処理に関するモデル契約条項を組み込んだもの)を整備しておきます。※2
③ 金銭負担に対処する:孤独死保険等の導入
原状回復費用、遺品整理費用、家賃損失補償を保険によって担保し、オーナーの経済的損害を補償対象・限度額の範囲で軽減します。
5. 居住サポート住宅の開始と、行政・地域福祉との連携
制度的な観点からも、追い風は強まっています。2025年10月よりスタートした「居住サポート住宅」制度では、日常の安否確認や訪問による見守り、福祉サービスへのつなぎ体制を備えた賃貸住宅の居住安定援助計画を、福祉事務所設置自治体等が認定する仕組みが整いました。※3

これからの賃貸管理会社に求められるのは、単に「部屋を貸す」ことにとどまらず、地域福祉、社会福祉協議会、民生委員、居住支援法人と連携し、入居者の生活基盤を支えるネットワークのハブとなることです。
見守りシステムを通じて平時から入居者の生活リズムや支援状況を把握しておくことは、緊急時のスムーズな外部連携を可能にし、行政やオーナーからも選ばれる強固な管理ブランドの構築へとつながります。
6. 収益シミュレーション:今の空室を埋め、将来の稼働と収益を守る
高齢者を排除することは、一見するとリスクを回避しているように見えますが、実際には「空室の長期化と賃料下落」という確実な経営リスクを抱え込む結果となります。一方で、高齢者を受け入れるためには、見守りや保険、契約上の備えなどに費用がかかります。経営判断では、「受け入れるための費用」と「空室を短縮することで得られる収入」を比較することが大切です。
家賃7万円の空室1戸について、受け入れ対象を広げることで、仮に入居が3か月早まった場合を見てみましょう。
試算:空室が3か月早く埋まった場合(家賃7万円・比較期間12か月)
| 項目 | 従来の募集で6か月後に入居 | 対策を整え、高齢者も対象にして3か月後に入居 |
|---|---|---|
| 空室期間 | 6か月 | 3か月 |
| 比較期間内の家賃収入 | 420,000円 | 630,000円 |
| 管理料(5%) | 21,000円 | 31,500円 |
| 高齢者受け入れの対策費用 | 0円 | 27,000円 |
| オーナーの差引収入 | 399,000円 | 571,500円 |
| オーナーの収入増加額 | — | +172,500円 |
| 管理会社の管理料収入増加額 | — | +10,500円 |
この例では、対策費用をオーナーが全額負担しても、最初の12か月で手元に残る収入は17万2,500円増えます。管理会社にも、1戸当たり1万500円の管理料増収が生まれます。

ただし、初年度の増収と長期の費用負担は分けて考える
空室短縮による増収は入居が早まることで生まれますが、見守りなどの月額費用は入居中ずっと続きます。月3,000円なら、入居から5年間で18万円、10年間で36万円です。初年度の収支改善だけを理由に、長期にわたる全額負担まで有利だとは判断できません。そこで、導入時には継続費用の分担まで決めておきます。
- オーナーが負担する:空室対策と、資産の保全に必要な費用として位置づける。
- 入居者が負担する:「安心サポート費」として合意のうえで負担してもらう。
- 双方で分担する:月額費用を折半するなど、双方のメリットを踏まえて設計する。
すべての費用を一律に扱う必要はありません。各サービスの契約者・補償対象・支払条件を確認し、入居者にとっても家賃と合わせて無理なく支払える金額にすることが重要です。管理会社が費用を負担する場合も、管理料の増収だけで賄えるかを確認します。
本題は、高齢者の割合の変化に備えること
ただし、高齢者受け入れの経営的な意味は、「今ある空室が何か月早く埋まるか」だけではありません。もう一つ考えるべきなのは、5年後、10年後も、現在の入居戸数と収入を維持できるかという問題です。
地域の賃貸住宅に暮らす人たちの構成が変われば、管理会社が向き合う入居需要も変わります。単身高齢者の割合が高まる中、その層を受け入れないままでは、募集対象となる世帯の範囲が狭くなっていきます。他の層の獲得で補えなければ、入居戸数が減り、オーナーの家賃収入も、管理会社の管理料収入も減っていきます。
まずは、県内の民営借家に暮らす世帯のうち、65歳以上の単身世帯が占める割合を、自社の入居中の戸数に当てはめてみる。その戸数と、実際の受け入れ戸数を比較すれば、地域の入居実態に対する自社の現在地が見えてきます。さらに、地域の割合が5年後、10年後に変化した場合、今の入居戸数を維持するには、どの程度の高齢者受け入れを見込んでおくかを考えることができます。
高齢者を受け入れる態勢を今から整えることは、目の前の空室対策であると同時に、将来の稼働と収益を守るための備えです。そして、その態勢を持つことが、入居者とオーナーに選ばれる理由となり、新たな入居や管理受託につながる可能性があります。
7. デナリ・コネレーションが提示する「見守りBPO」という解決策
私たちデナリ・コネレーションが目指しているのは、入居者にはプライバシーの保たれた安心な暮らしを提供しつつ、賃貸管理会社には無理な負担をかけない、持続可能な見守り体制を構築することです。
見守りを導入した後に、担当者がいつ出るか分からないアラートに常に気を張り、そのすべてを確認しなければならないという運用では、現場の負担が大きくなり、疲弊につながります。デナリ・コネレーションは、以下の組み合わせにより、この構造的課題を解決します。

高精度CO₂センサー「デナリ・ボッツ」
カメラやマイクを使わず、呼吸に由来する室内のCO₂濃度の変化から人の「存在」を把握します。設置環境や生活習慣に応じた波形を捉え、判断に疑義の生じにくい情報を提供します。
専任スタッフによる電話確認代行(見守りBPO)
アラート発報時、専任スタッフが対応時間内にデータを確認し、本人への電話確認などを通して本当に対応が必要なものだけに絞り込むことにより、現場担当者の業務負担を減らします。
確認結果の積層と共有
本人とのやり取りや不在事情を記録・蓄積し、次の見守りや関係機関との連携に活かす運用フローを提供します。
機器(ハード)と人による確認代行(BPO)が一体となることで、現場担当者は「通知を常に気にかけるストレス」から解放され、真に対応が必要なケースにのみ集中できるようになります。
8. おわりに:経営者が果たすべき決断
孤独死対策・高齢者受け入れの問題は、現場の担当者の努力や個人の思いやりに依存している限り、永遠に解決しません。
「高齢者を受け入れろ」と現場に命じるのではなく、「孤独死が起きても、早期発見と事後処理につなげる仕組みを整えた。だから安心してオーナーに提案してほしい」と言える“武器”を用意することこそが、経営層に求められる真の決断です。
高齢者をリスクとして遠ざける時代は終わりました。適切なテクノロジーと外部BPOの運用力を組み合わせ、安全に受け入れるインフラを整えること。それこそが、社会課題を解決しつつ、他社との圧倒的な差別化を図り、持続可能な賃貸管理経営につなげる、ひとつの具体的な道筋になります。
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出典・参考
※1 国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(2021年10月)|発表ページ
※2 国土交通省・法務省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」|発表ページ
※3 国土交通省 報道発表「居住サポート住宅情報提供システムの公開~10月1日より認定制度が始まります!」(改正住宅セーフティネット法・居住サポート住宅認定制度、2025年10月施行)|発表ページ