認知症は”例外”ではない──584万人時代に、賃貸現場ができること

認知症を前提に考える賃貸経営と、暮らしの変化に気づく見守りのイメージ

「高齢の方をお迎えするのは構いません。でも、もし認知症になられたら、うちでは対応できませんから」──賃貸オーナーや管理会社の集まりで、こんな声を耳にすることがあります。

孤独死や家賃の滞納と違って、この不安は表立って語られることが多くありません。それでも入居審査の場面では、静かに、しかし確実に判断を左右しています。「何が起きるのか分からない」という漠然とした不安ほど、断る理由として強く働くものはないからです。

実はここ数年のあいだに、認知症をめぐる国の考え方と法律の仕組みが大きく動きました。本記事では、数字と制度の変化を確かめたうえで、賃貸経営の現場が実際に何をすればよいのかを整理していきます。

「認知症になったら」は、もう特別な想定ではありません

まず、数を確かめておきましょう。

厚生労働省の研究班が2024年5月に公表した調査があります。2022年時点で、65歳以上の認知症の有病率は12.3%、軽度認知障害(MCI)は15.5%でした※1。合わせると27.8%。65歳以上のおよそ4人に1人以上が、認知症またはその手前の状態にあるという計算になります。将来推計では、2040年に認知症の人が約584万人、MCIの人が約613万人と見込まれています※1

ここで身構える必要はありません、と申し添えておきます。同じ研究では、有病率そのものはむしろ下がっているという結果も示されました。2012年の前回調査で15.0%だった認知症の有病率が、12.3%へと低下しているのです※1。喫煙率の低下や生活習慣病の管理が進んだことが背景にあると考えられています。人数が増えていくのは、高齢者そのものが増えるからです。

つまり認知症は、「めったに起きない不運」ではありません。高齢の入居者を迎える以上、十分あり得る前提として数えておくべきものです。逆に言えば、前提として扱えるものには、備えようがあります。

65歳以上における認知症と軽度認知障害の割合、および将来推計を示した図解イメージ

国の方針は「隔てる」から「共に暮らす」へ

認知症をめぐる国の姿勢も、この数年で大きく変わりました。

2024年1月に認知症基本法が施行され、同年12月3日には認知症施策推進基本計画が閣議決定されています※2。この計画の柱に据えられたのが、「新しい認知症観」という考え方です。

中身は大きく2つ。ひとつは、誰もが認知症になり得ることを前提に、一人ひとりが自分ごととして理解すること。もうひとつは、認知症になってからも、できることややりたいことを持ち、住み慣れた地域で仲間とともに、希望を持って自分らしく暮らせるようにすることです※2。かつての施策が「支える側」と「支えられる側」を分ける発想に立っていたとすれば、いまの計画は、その線引き自体を引き直そうとしています。

賃貸経営の立場で読み替えると、意味ははっきりします。「住み慣れた地域で暮らし続ける」というとき、その暮らしの器になるのは、多くの場合、施設ではなく普通の住まいです。持ち家の人もいれば、賃貸住宅に住み続ける人もいる。賃貸住宅は、この方針を実際に成り立たせる舞台のひとつに数えられているわけです。

とはいえ、オーナーや管理会社に介護の担い手になれ、という話ではありません。求められているのは、専門職の役割を肩代わりすることではなく、住まいを貸す立場からできる範囲のことをする、という一点だけ。その範囲がどこまでなのかは、このあと具体的に見ていきます。

25年ぶりに変わる成年後見制度が、実務にもたらすもの

制度の面でも、賃貸実務に効く大きな変更がありました。

2026年6月17日、民法等の一部を改正する法律が成立し、同月24日に公布されました(令和8年法律第45号)※3。成年後見制度の見直しとしては、2000年の制度創設以来、およそ25年ぶりの大改正です。

改正の中心は、これまでの「後見」「保佐」「補助」という3つの類型のうち、後見と保佐を廃止して「補助」の制度に一元化する点にあります。本人にとって必要な範囲で利用できるようにする、というのが狙いです※3。現行制度が使いにくいと言われてきた理由のひとつは、いったん始めると本人の状態にかかわらず続いてしまう点にありました。権限も広く設定されがちでした。必要な範囲と期間に絞って使える形へ寄せることで、「大げさすぎるから使わない」という選択が減ると期待されています。

賃貸の現場に引きつけて考えてみます。契約の更新、家賃の支払い、退去の判断といった場面で、入居者本人の意思確認に不安が生じたとき、これまでは親族を探すか、重い制度に踏み切るかの二択に見えていました。そこに、現実的な受け皿が加わることになります。

ただし施行はまだ先で、公布から2年6か月を超えない範囲で政令が定める日とされています※3。2028年ごろが目安と見ておいてください。いまは、来るべき変化を知っておく段階です。

そしてもうひとつ、押さえておきたい性質があります。制度は、困りごとが表に出てからでないと動き出せません。誰かが「様子がおかしい」と気づいて初めて、相談も手続きも始まる。ここが、次の話につながります。

木造住宅の縁側で穏やかに新聞を読む高齢男性の写真イメージ

現場が最初に気づくのは、診断名ではなく”暮らしの変化”

日々入居者と向き合う現場では、変化はとても地味な形で現れます。

毎月きちんと振り込まれていた家賃が、数日ずれるようになる。同じ問い合わせの電話が、短いあいだに何度もかかってくる。ゴミ出しの曜日が合わなくなる。鍵をなくしたという連絡が続く。郵便受けにチラシが溜まったままになっている。どれも単体で見れば、うっかりで済む出来事ですし、実際その多くはうっかりでしょう。それでも、いくつかが重なって続いたときには、暮らしのどこかに変化が起きているサインかもしれません。

そして、そのサインに最初に触れるのは、医師でも遠方の家族でもなく、日常的に接している管理会社やオーナーであることが少なくないのです。

ここで大事なのは、こちらが診断をしないことです。「認知症ではないか」と決めつける必要はありませんし、その立場にもありません。現場の役割は、「いつもと違うことが続いている」という事実を言葉にして、適切な窓口へ渡すところまで。そこから先は専門職の仕事です。

その窓口が、市町村が設置している地域包括支援センターです※4。保健師や社会福祉士、主任ケアマネジャーなどが配置され、高齢者に関する相談を無料で受け付けています。「入居者の様子が最近少し気になる」という段階の相談で構いません。むしろ、その段階のほうが打てる手は多く残っています。家族の連絡先が分からない、本人に切り出しづらい──そうした事情も含めて、まず一度相談してみてください。オーナーが一人で抱え込まなければならない場面は、思っているよりずっと少ないはずです。

「監視」ではなく、暮らしのリズムを知るということ

とはいえ、変化に気づくには、そもそも接点が要ります。

一人暮らしの高齢入居者と管理会社が顔を合わせるのは、年に数回あるかどうか。家賃が口座振替であれば、何年も会わないまま過ぎることさえあります。「気づいてつなぐ」と言葉にするのは簡単ですが、気づくきっかけが日常のどこにもない、というのが現場の正直なところではないでしょうか。

そこで手がかりになるのが、部屋の空気から暮らしの様子を捉える見守りです。日伸貿易株式会社の「デナリ・コネレーション」は、人の呼吸で増えるCO2(二酸化炭素)の変化から、入居者の在室・不在や安否をゆるやかに把握します。カメラも音声も使わず、映像も音も記録しません。工事もWi-Fiも不要で、コンセントに挿すだけで使い始められます。

見えるのは、暮らしのリズムだけです。いつも在宅している時間帯に反応がない。ここ数日の外出の様子が、どうもいつもと違う。そうした引っかかりが、「そういえば先月の家賃も遅れていた」と現場の記憶をつなぎ合わせるきっかけになります。念のため申し添えると、これは認知症を判定する装置ではありません。空気の変化から分かるのは、あくまで生活のリズムです。それでも、年に数回の接点しかなかった関係に日々の手がかりが加わる意味は、決して小さくないでしょう。

そして何より、反応がないときに「お変わりありませんか」と一声かける、そのやりとり自体が、入居者にとっては気にかけてもらえているという実感になります。監視ではなく、つながりとしての見守り。認知症という言葉を持ち出さなくても、日常のやりとりの中で自然に様子を知ることができるのです。

コンセントに設置されたCO2見守りセンサーと、部屋で穏やかに過ごす高齢女性の写真イメージ

「対応できない」から「気づける」へ

全国の賃貸住宅管理会社632社に、単身高齢者の入居で課題だと感じることを尋ねた調査があります。最も多かったのは「孤独死」で84.0%、続いて「事故物件化」が38.4%、退去時の「残置物処理」が37.0%でした※5

並べてみると、いずれも「起きたこと」への心配であると同時に、「気づけないまま時間が過ぎること」への心配でもあると分かります。孤独死が重い問題になるのも、事故物件化や残置物の処理が難しくなるのも、多くは発見の遅れが引き金になるからです。

認知症についても、構図はよく似ています。恐れられているのは認知症そのものというより、部屋の中で何が起きているか分からないまま事態が進んでいくことでしょう。であれば、打つべき手は「断る」ではなく、「気づける状態をつくる」ほうにあります。

気づける体制があれば、受け入れられる入居者の層は広がります。これまで書類の段階で見送っていた申し込みに、「この物件なら大丈夫」と答えられるようになる。募集をかけられる相手が増えるということは、そのまま空室を埋める力になります。断って間口を狭める経営と、備えて間口を広げる経営。5年後にどちらが強いかは、考えるまでもないのではないでしょうか。

認知症は、避けられるかどうかの問題から、来ることを前提にどう構えるかの問題へと変わりました。国の方針も、法律の仕組みも、その方向に動いています。「対応できないから断る」ではなく、「気づけるから受け入れられる」へ。あなたの物件は、どちらの構えで次の入居者を迎えますか。

出典一覧

  • ※1 厚生労働省 研究班(九州大学 二宮利治教授)「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(2024年5月8日 第2回認知症施策推進関係者会議で公表)|発表ページ
  • ※2 内閣官房 認知症施策推進本部「認知症施策推進基本計画」(2024年12月3日閣議決定)|発表ページ
  • ※3 法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)(令和8年法律第45号・2026年6月17日成立/6月24日公布)|発表ページ
  • ※4 厚生労働省「地域包括ケアシステム」(地域包括支援センターの概要)|発表ページ
  • ※5 アットホーム株式会社「高齢者の賃貸居住に関する調査」(2026年6月公表・2026年2月調査/全国の賃貸住宅管理会社632社)|発表ページ

「亡くなった後の片付けが不安」で断る前に──残置物モデル契約条項と見守り

残置物モデル契約条項と見守りで単身高齢者の入居に備える賃貸経営のイメージ

「入居の希望はありがたい。でも、もしこの部屋で亡くなられたら、その後の片付けは、いったい誰がするのか」──単身の高齢者から入居の申し込みを受けたとき、こう考えて手が止まってしまう賃貸オーナーは、決して少なくありません。

家賃を納めてくれる入居者としては歓迎したい。それでも、万一のあとに残る”後始末”を思い浮かべると、つい「今回は見送りましょうか」と口をついて出てしまう。この「亡くなった後の不安」こそ、高齢者の受け入れをためらわせる、根の深い理由のひとつです。

実はこの不安に対して、国はすでにひとつの答えを用意しています。「残置物の処理等に関するモデル契約条項」です。本記事では、この仕組みの中身と、それでも最後に残る”ひと押し”の正体を、賃貸経営の現場目線で読み解いていきます。

「後始末が不安」──オーナーが単身高齢者をためらう本当の理由

高齢者の入居に慎重な大家さんは、実際どのくらいいるのでしょうか。

全国の賃貸オーナー500名を対象にした調査では、高齢者を「受け入れていない」と答えた人が41.8%にのぼりました※3。4割を超える大家さんが、いまも高齢の入居希望者に首を縦に振れずにいる計算です。理由として繰り返し挙がるのが、家賃の滞納と並んで、「万一のときの対応」への不安でした。

見逃せないのは、同じ調査で、高齢者の受け入れに使える対策を「知らない」と答えた人が全体で35.0%、受け入れていないオーナーに限ると55.0%に達していた点です※3。つまり、断っている大家さんの半数以上は、そもそも打つ手があること自体を知らないまま、不安だけを抱えて「お断り」を続けている。これは、いささかもったいない状況ではないでしょうか。

大家さんが口にする「万一のとき」を、もう少しほどいてみます。多くの場合、それは亡くなること自体というより、その後に降りかかる作業への恐れです。荷物を誰が運び出すのか、原状回復や清掃の費用は誰が負担するのか、相続人とどう連絡を取るのか──答えの見えない問いが一度に押し寄せる。この”見通しの立たなさ”こそが、不安の正体だと言ってよいでしょう。裏を返せば、段取りさえ描ければ、不安の多くは輪郭を失っていきます。

賃貸オーナーが高齢者の入居をためらう理由と対策の認知度を示す図解イメージ

相続人が現れないと、片付けもできない──”死後の残置物”の厄介さ

では、なぜ「亡くなった後」がこれほど重い課題になるのでしょう。理由は、法律の仕組みにあります。

賃貸借契約は、入居者が亡くなっても自動では消えません。借りる権利(賃借権)は相続人に引き継がれ、部屋に残された家財(残置物)も相続人のものになります。だから大家さんは、勝手に契約を終わらせることも、荷物を処分することもできないのです。相続人と連絡がつき、話がまとまればよいのですが、単身高齢者の場合、その相続人がそもそも見当たらない、あるいは所在が分からない、というケースが起こり得ます※1

たとえば、遠方に暮らす甥や姪が唯一の相続人で、「関わりたくない」と相続放棄を選ぶ。あるいは連絡そのものがつかない。こうなると、大家さんは残された家財に手を触れることすらためらわれます。無断で処分すれば後々のトラブルになりかねず、かといって放置すれば部屋は塞がったまま。結局、正式な手続きを踏んで片をつけるまで、数か月単位で動けなくなることもあります。

相続人が現れなければ、契約はいつまでも宙に浮き、部屋には前の入居者の家財が残ったまま。次の募集もかけられません。空室のまま時間だけが過ぎていく──日々物件と向き合う現場からすれば、これは家賃が入らないだけでなく、精神的にも重くのしかかる事態です。「亡くなった後が不安」という一言の裏には、こうした行き止まりの構図が隠れています。

国が示した答え──「残置物の処理等に関するモデル契約条項」とは

この行き止まりを解くために作られたのが、冒頭で触れた「残置物の処理等に関するモデル契約条項」です。

策定したのは、法務省民事局と国土交通省。2021年6月7日に、単身高齢者(想定はおおむね60歳以上)の居住の安定を図る狙いで公表されました※1。中身は、入居者が生前のうちに、信頼できる受け手(受任者)とのあいだで結んでおく2つの委任契約です。

ひとつは、契約の解除に関するもの。入居者が亡くなった後に、受任者が代理で賃貸借契約を解除できるようにしておく取り決めです。もうひとつは、残置物の処理に関するもの。亡くなってから一定の期間が過ぎ、契約も終わった後に、受任者が家財を廃棄したり、指定された送り先へ渡したりできるようにするものです。金銭価値のあるものは、できるだけ換価するよう努める、という配慮も盛り込まれています※1。あらかじめ「これだけは捨てないでほしい」と形見の品を指定しておくこともできます。

ポイントは、受任者を誰にするかです。利害が対立しやすい大家さん自身ではなく、居住支援法人などの第三者が引き受けることが望ましいとされています※1。当事者ではない立場の人が間に入ることで、入居者も安心して契約を結べる仕組みになっているのです。

日本の木造住宅の縁側で穏やかに過ごす高齢女性の写真イメージ

”絵に描いた餅”にしないために──活用ガイドブックと実務の流れ

とはいえ、契約条項という言葉だけを見せられても、「で、実際どう使えばいいのか」と身構えてしまう大家さんは多いはずです。

その声に応えるかたちで、国土交通省は2024年6月5日、「残置物の処理等に関するモデル契約条項の活用ガイドブック」を公表しました※2。契約を結ぶところから、実際に残置物へ対応するところまでを、順を追って解説した実務者向けの手引きです。誰を受任者にすればよいか、どんな手順を踏むのか、といった現場の疑問に沿って整理されています。

実務でつまずきやすいのが、「では、受任者を誰に頼むのか」という一点です。親族に受けてもらえるとは限らず、大家さん自身が受けるのは利益相反の懸念から避けたい。そうなると、第三者として引き受けてくれる担い手を、どう見つけるかが現実の課題になります。ガイドブックは、この担い手の候補や、事務にかかる費用の考え方についても触れ、契約を”結んで終わり”にしないための道筋を示しています※2

背景には、制度の追い風もあります。近年は、単身高齢者などの入居を支える制度の枠組みも広がり、居住支援法人のように、受任者の受け皿となり得る存在も各地で育ちつつあります。「仕組みはあるのに使われない」を防ぐための下地が、少しずつ整ってきたと言えるでしょう。まずは、地域の居住支援法人や、付き合いのある管理会社に一度相談してみてください。話は、そこから動き出します。

それでも残る「気づけない」不安──生前の”見守り”が埋めるもの

ここまでの備えがあれば、亡くなった後の手続きは、ずいぶん見通しが立ちます。けれど、勘のいい大家さんはお気づきかもしれません。モデル契約条項が整えてくれるのは、あくまで「亡くなったと分かった後」の話だ、ということに。

大家さんが本当に恐れている事態──部屋の傷みや、大がかりな原状回復、残された家財の扱い──は、多くの場合、亡くなったこと自体ではなく、”発見の遅れ”から生まれます。誰にも気づかれないまま時間が過ぎるほど、後始末は重くなる。逆に言えば、早い段階で異変に気づけさえすれば、後始末はぐっと通常の範囲に収まります。契約条項が「片付け」を担うなら、”気づき”を担う相棒がもうひとつ要る。ここで見守りの話に戻ります。

そこで注目されているのが、CO2(呼吸)の変化から入居者の在・不在や安否を捉える見守りです。日伸貿易株式会社が手がける「デナリ・コネレーション」は、カメラも音声も一切使わず、部屋の空気の状態だけを見守ります。映像も音も記録しないため、入居者の心理的な負担が小さいのが持ち味です。工事もWi-Fiもいらず、コンセントに挿すだけで使い始められます。

そして何より、反応がないときに「お変わりありませんか」と一声かける、そのやりとり自体が、入居者にとっては”誰かに気にかけてもらえている”というゆるやかなつながりになります。監視ではなく、つながりとしての見守り。現場では、こうした一本の連絡が、入居者との関係をあたたかく保つ役目も果たしています。空気の変化を手がかりに、在宅中の生活リズムや外出の有無をやわらかく把握できる可能性もあります。単なる安否確認にとどまらない使い方が期待されているのです。

コンセントに挿すCO2見守り機器のある居室で穏やかに過ごす高齢男性の写真イメージ

死後の手続きを整える契約条項と、生前の異変に気づく見守り。この2つがそろって初めて、「亡くなった後が不安」というオーナーの気がかりは、現実的に手当てされるのです。片方だけでは、どうしても隙間が残ります。

「断る経営」から「備えて受け入れる経営」へ

見守りと備えの仕組みを持つことは、入居者だけでなく、大家さんや管理会社にとっても確かな利点があります。

早い段階で異変に気づければ、被害が大きくなる前に手を打ちやすくなります。発見が遅れて物件が傷む事態や、担当者がつらい現場に立ち会う負担も避けやすくなる。そして残置物や契約の後始末も、あらかじめ結んだ契約条項に沿って淡々と進められます。「何かあったら、どうしよう」という漠然とした恐れが、「何かあっても、こう動ける」という段取りに変わる。この安心こそが、これまで「お断り」せざるを得なかった層への扉を開きます。

それは入居対象の広がり、空室期間の短縮、そして収益の底上げにつながります。リスクを恐れて間口を狭める経営から、リスクに備えて機会を広げる経営へ。備えは”守り”であると同時に、”攻め”の一手にもなるのです。

「後始末が不安だから」と間口を狭め続ける時代は、そろそろ手放してもいいのかもしれません。備えがあれば、受け入れられる。次の一室を、あなたはどちらの経営で埋めますか。

出典一覧

  • ※1 法務省民事局・国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)の策定について」(2021年6月7日策定)|発表ページ
  • ※2 国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項の活用ガイドブック ~単身高齢者の賃貸住宅への円滑な入居のために~」(2024年6月5日)|発表ページ
  • ※3 株式会社R65「高齢者向け賃貸に関する実態調査(賃貸オーナー向け)」(2024年4月9日公表・全国の賃貸オーナー500名)|発表ページ

「孤独死=事故物件」は思い込み?──告知ガイドラインが教える“分かれ道”

「孤独死=事故物件」は思い込み?──告知ガイドラインと発見の早さをテーマにした賃貸経営コラムのアイキャッチ

「高齢の方に長く住んでほしい。でも、もし部屋の中で孤独死されて、事故物件になってしまったら──」。単身高齢者の入居申込を前に、こんな不安が頭をよぎるオーナーや管理会社は、少なくありません。

空室対策として高齢者の受け入れが避けて通れないことは、頭では分かっている。それでも「孤独死=事故物件=資産価値の下落」という連想が、最後のサインをためらわせます。けれど、その連想は、本当に正しいのでしょうか。

この記事では、国が示した告知のルールをたどりながら、「孤独死したら即、事故物件」という思い込みをほどきます。そのうえで、事故物件になるかどうかの“分かれ道”がどこにあるのか、そこに見守りがどう効くのかを、賃貸経営の視点から考えます。

「孤独死したら事故物件」は、実は正確ではない

かつて不動産取引には、過去に人が亡くなった物件をどう扱うべきか、はっきりした物差しがありませんでした。現場は判断に迷い、取引が滞ることも少なくなかったといいます。そこで国土交通省が2021年10月に定めたのが、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」です※1。心理的瑕疵、いわゆる事故物件の扱いについて、国が初めて一定の考え方を示した文書です。

このガイドラインが示した原則の一つは、意外なほど知られていません。賃貸借の対象となった部屋で起きた自然死や、転倒・誤嚥といった日常生活の中での不慮の死は、原則として次の入居者に告げなくてよい、というものです※1。老衰や病気で亡くなること自体は、事故物件の扱いにはならない。国はそう整理したわけです。

「孤独死」という言葉には、それだけで資産価値を大きく損なう特別な出来事のような響きがあります。けれど、亡くなり方の多くを占める自然死は、ガイドラインのうえでは、そもそも原則として告知の対象外なのです。まずはこの一点から、思い込みをほどいていきましょう。

分かれ道は“死”ではなく、“発見の遅れ”にある

とはいえ、話はここで終わりません。同じガイドラインには、続きがあります。自然死であっても、いわゆる特殊清掃などが行われた場合には扱いが変わり、賃貸では事案の発生から概ね3年の間、入居希望者に告げることとされています※1

では、特殊清掃が必要になるのは、どんなときでしょうか。亡くなってから発見までに時間が空き、室内に汚れや臭いが残ってしまった場合です。つまり、事故物件になるかどうかを本当に分けているのは、「亡くなったこと」そのものではありません。「発見までに、どれだけ時間がかかったか」なのです。

少し補足しておきます。ガイドラインが自然死を原則告知の対象外としているのは、それが誰の身にも起こりうる、避けようのない出来事だからでしょう。一方で、長く放置されて室内が大きく傷んでしまえば、次にその部屋を借りる人の受け止め方は変わってきます。事故物件かどうかを決めているのは、死という事実そのものよりも、そのあとに残された“状態”のほうだ、と言い換えてもよさそうです。

逆に言えば、早く気づけてさえいれば、多くの場合は特殊清掃も、その後の告知義務も生じずにすみます。同じ自然死でも、翌日に気づかれた部屋と、ひと月放置された部屋とでは、その後がまるで違ってしまう。分かれ道は、死のその瞬間ではなく、そのあとに流れる時間の中にあります。

同じ自然死でも、発見が早い場合と遅れた場合で事故物件になるかどうかが分かれることを示した図解イラスト

“発見の遅れ”は、決して珍しい話ではない

では、発見の遅れは、実際どれくらい起きているのでしょうか。ここで恐ろしい情景を描くつもりはありません。淡々と、公的な推計の数字だけを見てみます。

内閣府は2026年4月、警察が2025年に扱った遺体をもとに、自宅で亡くなった一人暮らしの人が全国で7万6941人にのぼるという推計を公表しました※2。そのうち65歳以上が5万8919人と、およそ8割を占めます※2。高齢の単身者が自宅で亡くなること自体は、もはや例外的な出来事ではなくなっています。言い換えれば、いま自宅で亡くなる高齢の単身者の多くが、賃貸を含むどこかの住まいで、その時を迎えているということでもあります。

目を向けたいのは、発見までの時間です。同じ推計では、亡くなってから8日以上たって見つかった人が2万2222人、1か月以上が過ぎてからだった人も7148人にのぼるとされています※2。気にかけて連絡を取り合う相手がいないまま、発見だけが遅れていく。その“遅れ”こそが、先ほどの分かれ道を、悪い方へと静かに傾けてしまうのです。

日々入居者と向き合う管理の現場では、「お元気だと思っていた方の異変に、家賃の引き落としが止まって初めて気づいた」という話は、決して珍しくないのではないでしょうか。悪意でも怠慢でもなく、気づく手がかりが、たまたま何もなかった。その静かな空白が、遅れを生みます。

なぜ、これが賃貸オーナーの経営問題なのか

ここで、話を賃貸経営に引き寄せます。

単身の高齢入居者は、これからも増え続けます。内閣府の白書によると、65歳以上の人口に占める一人暮らしの割合は、2020年に男性15.0%・女性22.1%だったものが、2050年には男性26.1%・女性29.3%まで高まると見込まれています※3。受け入れる母数が増えれば、発見の遅れというリスクに向き合う場面も、そのぶん増えていきます。

そして発見の遅れは、そのままオーナーの負担へと跳ね返ってきます。特殊清掃や大がかりな原状回復の費用がかさむだけではありません。事故物件として概ね3年の告知義務を負えば、その間の募集は不利になり、家賃を下げざるを得ない場面も出てきます※1。たった一部屋の出来事が、保有資産全体の収益に、長く影を落とすことになるのです。

損失は、目に見える出費だけにとどまりません。特殊清掃や原状回復にまとまった費用がかかるうえ、その部屋はしばらく貸し出せなくなります。ようやく募集を再開しても、事情を知った入居希望者は身構えがちです。相場より家賃を下げ、それでも決まらない期間が続く。近隣の入居者に不安が広がって、退去が重なることもあるでしょう。一つの発見の遅れが、清掃費・空室・家賃・評判という複数の面から、じわじわと収益を削っていきます。だからこそ、事が起きてからの後始末より、そもそも遅れを生まない備えのほうに、目を向ける価値があります。

断れば、長く住んでくれたはずの借り手を逃す。受け入れれば、発見の遅れが怖い。この板挟みをほどく鍵は、実のところ、とてもシンプルです。オーナーが本当に求めていたのは「高齢者を避けること」ではなく、「異変に早く気づける状態」そのものだった、というわけです。

木造住宅の縁側で朝の光を浴びながら鉢植えに水をやる高齢女性の写真イメージ

“発見の早さ”を、仕組みにする

早く気づける状態を、担当者の巡回や記憶だけで保ち続けるのは、簡単なことではありません。人の目には限りがあり、入居者のプライバシーにも配慮が要ります。そこで力を発揮するのが、見守りの技術です。

私たちが提供する「デナリ・コネレーション」は、CO₂(呼吸)センサーを使った見守りサービスです。人が呼吸することで生まれる、部屋の空気のわずかな変化。そこから、在・不在や安否をそっと見守ります。カメラも音声も一切使わず、映像も音も記録しません。見られたくない暮らしぶりには、そもそも触れない仕組みです。設置に工事もWi-Fiもいらず、コンセントに挿すだけ。入居中の部屋でも、その日のうちに見守りを始められます。

肝心なのは、いつもと違う様子を捉えたとき、その知らせが自動で外へ届くという点です。反応がないときには「お出かけですか」「お加減はいかがですか」と一声かけ、必要に応じて管理会社やご家族へつなぐ。監視ではなく、つながりとしての見守りが、発見までの時間を縮めます。事故物件化を防ぐいちばんの近道は、事後の清掃ではなく、事前に“早く気づける仕組み”を備えておくことなのです。

見守りが捉えるのは、安否の有無だけではありません。在宅しているのに反応が鈍い、外出のリズムがいつもと違う──そうした日々の小さな変化の積み重ねが、体調の異変の“兆し”として表れることもあります。CO₂の濃度は、部屋に人がいて息をしているかぎり、静かに上下します。その穏やかなリズムをそっと見ておくことは、大ごとになる前の、ゆるやかな気づきにつながります。安否確認の一歩手前で、変化に手を差し伸べられる余地が生まれるのです。

コンセントに設置されたCO2見守りセンサーと、部屋で穏やかにお茶を飲む高齢男性の写真イメージ

見守りは“守り”であり、“攻め”でもある

見守りを一つ備えておくことは、入居者のためであると同時に、オーナー自身の資産を守る手立てになります。

万一のとき早い段階で気づければ、特殊清掃や長期の告知義務といった、最も避けたい展開を回避しやすくなります。運用の現場からは、こうした早期発見のおかげで、担当者が痛ましい現場に立ち会う事態そのものを防げた、という声も届いています。守りの一手として、見守りは確かに働きます。

しかも、この守りは入居者の尊厳を守ることでもあります。誰にも気づかれないまま時間が過ぎる事態を避けられれば、その人らしい最期に、少しでも近づけるはずです。オーナーの資産を守る仕組みと、入居者の暮らしをそっと支える仕組みが、コンセントに挿した一台の中で重なり合う。ここに、見守りという小さな投資の、いちばん大きな意味があります。

そして見逃せないのが、“攻め”の側面です。「高齢の方はリスクが高いので」という断り文句は、「万一のときも、早く気づける仕組みがあります」という受け入れの言葉に置き換わります。断る理由を一つ外すたびに、入居対象は広がり、空室の期間は縮まっていく。しかも高齢の入居者は、腰を据えて長く住んでくれる借り手でもあります。頻繁な入退去に頭を悩ませずにすむのは、経営にとって決して小さくない利点ではないでしょうか。

「高齢者を入れたら事故物件になるかもしれない」という漠然とした不安は、「この部屋は、早く気づける部屋か」という具体的な問いに置き換えられます。その答えを“運”任せにせず、仕組みで用意できる時代に、賃貸経営はすでに入っています。

「孤独死されたら困る」と身構えて間口を狭める前に、「早く気づける部屋になっているか」を確かめてみませんか。事故物件になるかどうかの分かれ道は、受け入れるかどうかを決める、もう一つ手前に置かれています。

出典一覧

  • ※1 国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(令和3年10月策定)|発表ページ
  • ※2 内閣府「孤立死者数の推計」(2025年の警察取扱死体をもとに2026年4月公表)|発表ページ
  • ※3 内閣府「令和7年版高齢社会白書」(2025年)|発表ページ

「保証人がいない」で断る前に──改正法と見守りが変える単身高齢者の入居審査

「保証人がいない」で断る前に──保証と見守りで単身高齢者を受け入れる賃貸経営をテーマにしたコラムのアイキャッチ

「お部屋は気に入っていただけましたか。では、緊急連絡先にご親族のお名前を書いていただけますか」──。入居申込書を前に、こう切り出したところで、単身の高齢入居希望者の手が止まる。書ける相手が、いない。管理会社の窓口では、そんな場面が静かに増えています。

家賃を滞納しないかどうかは、いまや保証会社が引き受けてくれます。それでも高齢の単身者だけは、最後の最後で申込書の一行につまずいてしまう。お金の心配は仕組みで解けたのに、なぜこの人たちは、まだ断られてしまうのでしょうか。

この記事では、その「最後の一行」の正体をほどきながら、2025年10月に動き出した法改正と、そこに“見守り”を重ねることで開ける、単身高齢者の新しい受け入れ方を考えます。

保証会社があるのに、なぜ高齢者は今も断られるのか

かつて入居審査といえば、親や兄弟に連帯保証人を頼むのが当たり前でした。ところが今は、家賃債務保証会社を使う契約が主流です。日本賃貸住宅管理協会の調査によれば、2023年度に取り扱われた賃貸契約のうち、実に9割超の物件で保証会社との契約が必須とされています※1。「保証人がいない」という壁は、制度のうえではほぼ過去のものになったはずでした。

それでも高齢の単身者がつまずくのは、審査で問われるものが「お金の保証」だけではないからです。多くの申込書には、家賃を保証する会社の欄とは別に、「緊急連絡先」を記す欄があります。入居者と連絡が取れなくなったとき、体調を崩して倒れていないか、万一のときに誰に知らせればいいのか──その受け皿を、あらかじめ確保しておくための欄です。

つまり、保証会社が引き受けるのはお金のリスクであって、安否のリスクではありません。「家賃は保証される。けれど、この人に何かあったとき、誰に連絡すればいいのか」。その問いに答えられないことが、高齢単身者の入居を止めている“もう一つの壁”なのです。保証と緊急連絡先は、まったく別の心配ごとだと言い換えてもいいでしょう。

現場では、この二つの壁が別々にやってくることがよくあります。保証会社の審査には無事に通った。家賃の支払い能力にも問題はない。それでも申込書の緊急連絡先の欄だけが空欄のまま返ってきて、契約の一歩手前で話が止まる。担当者としては、支払い能力を疑っているわけでも、その人を人として拒んでいるわけでもありません。ただ「万一のとき、この空欄が自分たちに重くのしかかる」という予感が、最後のサインをためらわせるのです。壁は、お金の壁を越えたその先に、もう一枚立っています。

“頼める親族”が、もういない──数字が示す構造の変化

そして厄介なことに、この壁はこれから高くなっていきます。緊急連絡先を頼める相手、つまり近くにいる家族そのものが、社会から減り続けているからです。

国立社会保障・人口問題研究所の推計では、世帯主が65歳以上の一人暮らし世帯は、2020年の738万世帯から、2050年には1,084万世帯へと1.5倍近くに増える見通しです※2。高齢者のいる世帯に占める単身世帯の割合も、35.2%から45.1%へと上がっていきます※2。高齢世帯のほぼ半分が、一人暮らしになる時代が近づいているのです。

一人暮らしの高齢者が増えるということは、裏を返せば、「すぐ連絡がつく子や兄弟が近くにいる高齢者」が減っていくということでもあります。子どもが遠方にいる、あるいは配偶者に先立たれ、きょうだいも高齢で頼みづらい。緊急連絡先の欄が埋まらないのは、その人が孤立しているからではなく、私たちの社会の家族のかたちが変わったからです。窓口で手が止まる場面がこれから増えていくのは、いわば時代の必然と言えます。

緊急連絡先が埋まらない審査は、誰の問題か

ここで、賃貸経営の現場に話を引き寄せてみます。

緊急連絡先が書けないという理由だけで申込みを見送るのは、オーナーにとっても本意ではないはずです。長く住んでくれそうな入居者を、書類の一行のために逃してしまう。かといって連絡先が空欄のまま受け入れれば、いざというとき誰も気づけないまま時間だけが過ぎる不安が残ります。断っても、受け入れても、後味の悪さが消えない──日々入居者と向き合う現場では、この板挟みが確かな重さで感じられているのではないでしょうか。

問題を少しほどいてみましょう。緊急連絡先に本当に求められている働きは、「異変が起きたときに、それが誰かに伝わること」の一点に尽きます。親族という“人”は、これまでその働きを担う最も身近な存在だったにすぎません。逆に言えば、異変にきちんと気づける別の仕組みさえあれば、埋まらない一行が持つ意味は、ずいぶん変わってくるはずです。求めていたのは連絡先という紙の情報ではなく、「気づける状態」そのものだった、というわけです。

木造住宅の縁側で穏やかに新聞を読む高齢男性の写真イメージ

改正法が示した答え──「緊急連絡先は、親族に限らなくていい」

同じ問題意識は、国の制度づくりの側でも共有され始めていました。その答えが、2025年10月1日に施行された改正住宅セーフティネット法です※3

この改正では、高齢者などの住宅確保要配慮者が使いやすい家賃債務保証業者を、国土交通大臣が認定する制度が新しく設けられました。認定を受けるための条件には、注目すべき二つの柱があります。一つは、居住支援の対象となる住宅に入居する要配慮者からの保証の申込みを、正当な理由なく断らないこと。そしてもう一つが、緊急連絡先の設定を求める場合に、それを親族などの個人に限定せず、法人でも認めることです※3

国がここまで踏み込んだ背景には、単身高齢者の住まい探しが、もはや個人の努力だけでは解けない社会課題になっているという認識があります。認定を受けた業者には、住宅金融支援機構の家賃債務保証保険を使いやすくする後押しも用意されました。要配慮者を受け入れる保証会社ほど損をしない仕組みへと、制度そのものを組み替えようとしているわけです。断らない保証会社が現れやすい土壌を、国が耕し始めたと言ってもいいでしょう。

二つ目の柱は、まさに先ほどの「最後の一行」に対する、国からの答えでした。緊急連絡先は、血のつながった親族でなければならない──長らく当たり前とされてきたその前提を、制度の側から解いてみせたのです。頼れる家族が身近にいなくても、その役割を担う受け皿さえあれば入居を諦めなくていい。法律が、そう認めたことになります。

連絡が届く仕組みを、人だけに背負わせない

とはいえ、緊急連絡先を法人でよいと認めても、一つの問いが残ります。その受け皿となる誰かは、いったいどうやって入居者の異変に気づくのでしょうか。連絡先の欄が埋まっても、部屋の中で起きた変化が伝わらなければ、備えは形だけのものになってしまいます。ここで力を発揮するのが、見守りの技術です。

私たちが提供する「デナリ・コネレーション」は、CO₂(呼吸)センサーを使った見守りサービスです。人が呼吸することで生まれる部屋の空気のわずかな変化から、在・不在や安否をそっと見守ります。カメラも音声も一切使わず、映像も音も記録しません。見られたくない暮らしぶりには、そもそも触れない仕組みです。設置は工事もWi-Fiも不要で、コンセントに挿すだけ。入居中の部屋でも、その日のうちに見守りを始められます。

そして肝心なのは、いつもと違う様子を捉えたとき、その知らせが自動的に外へ届くという点です。反応がないときには「お出かけですか」「お加減はいかがですか」と一声かけ、必要なら管理会社やご家族へつなぐ。人の記憶や巡回の頻度に頼っていた“気づき”を、仕組みが下支えしてくれます。緊急連絡先という役割を、もはや特定の誰か一人の肩だけに背負わせなくてよい。監視ではなく、つながりとしての見守りが、埋まらなかった一行を静かに埋めてくれます。

コンセントに設置されたCO2見守りセンサーと、部屋で穏やかに過ごす高齢女性の写真イメージ

保証は“お金”を、見守りは“気づき”を守る

最後に、視点を経営に戻しましょう。保証と見守りは、実はきれいに役割を分け合う関係にあります。

保証会社が守ってくれるのは、滞納や原状回復といった“お金”のリスクです。一方で見守りが守るのは、異変に気づくまでの“時間”です。この二つはどちらか一方では完結しません。発見が遅れれば、居室の傷みは進み、結果として保証会社が背負う損害も大きくなります。逆に、早い段階で気づける仕組みがあれば、入居者の尊厳が守られると同時に、金銭的な損失も小さく抑えられます。見守りは、保証と対立するものではなく、保証の負担そのものを軽くする、いわば補完の関係にあるのです。

保証会社の立場に立ってみると、この関係はいっそうはっきりします。家賃の数か月分にとどまらず、居室の原状回復や遺品の整理まで背負うことになりかねない事態は、保証を引き受ける側にとって最も避けたい出来事です。だからこそ、入居者の異変を早く捉えられる見守りが備わっている物件は、保証会社の目にも“安心して引き受けられる部屋”として映ります。オーナーが見守りを一つ入れておくことは、入居者のためであると同時に、保証を付けてもらいやすくするための布石にもなるのです。

この二枚看板が揃うと、オーナーへの説明も変わります。「高齢の方はリスクが高いので」という断り文句が、「お金は保証会社が、安否は見守りが受け持ちます」という受け入れの言葉に置き換わる。断る理由を一つ、また一つと外していけば、入居対象は自然と広がり、空室の期間は縮まります。しかも高齢の入居者は、腰を据えて長く住んでくれる借り手でもあります。頻繁な入退去に悩まされず、地域に根を張って暮らしてくれる──空室と原状回復に頭を痛める経営にとって、これは望ましい入居者像そのものではないでしょうか。

法律が前提を変え、技術が受け皿を用意した今、単身高齢者を受け入れられるかどうかは、もう“運”や“気合い”の問題ではなくなりました。仕組みで備えられる時代に入ったのです。

家賃の保証は保証会社が、安否の見守りはセンサーが受け持つという役割分担を表した図解イラスト

「ご親族の連絡先を書けますか」と問う審査から、「この方をきちんと見守れますか」と問う審査へ。単身高齢者の入居に向き合う姿勢を、そろそろ入れ替えてみませんか。

出典一覧

  • ※1 日本賃貸住宅管理協会「賃貸住宅市場景況感調査(日管協短観)第28回」(2024年)|発表ページ
  • ※2 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(令和6年推計)」(2024年)|発表ページ
  • ※3 国土交通省「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律について」(令和7年10月1日施行)|制度ページ

認知9割、導入2割──賃貸現場が“見守り”に踏み切れない3つの壁

認知9割、導入2割──見守りサービスの導入ギャップをテーマにしたコラムのアイキャッチ

「見守りサービス? もちろん知っていますよ。ただ、うちの物件に入れるとなると、話は別でね」──。高齢入居者への向き合い方を尋ねると、管理会社の方からはこんな声が返ってきます。関心はある。必要性も感じている。それでも、導入には踏み切れない。

2026年に発表されたアットホームの調査は、この“わかっているのに動けない”賃貸現場の実情を、はっきりと数字で示しました。見守りサービスを知っている管理会社は9割。ところが、実際に導入している物件があると答えたのは2割に届きません※1

この記事では、認知と導入のあいだに横たわる3つの壁──「お金」「手間」「入居者の抵抗感」──を一つずつほどきながら、導入がまだ2割にとどまる今だからこそ生まれる、賃貸経営上のチャンスについて考えます。

2社に1社が「高齢を理由に断った」──最新調査が映す現場のリアル

まず、調査の中身から見ていきましょう。アットホームが2026年2月、全国の賃貸住宅管理会社632社の経営者層に行った調査では、直近1年で高齢を理由に入居を断ったことが「ある」と答えた会社が49.2%にのぼりました※1。およそ2社に1社です。

過去のコラムでも繰り返しお伝えしてきたとおり、この数字は現場の冷たさを表すものではありません。同じ調査で、単身高齢者の入居について課題と感じることを尋ねると、最も多かった答えは「孤独死」で84.0%。事故物件化や残置物の処理がそれに続きます※1。つまり、断る判断のほとんどは「亡くなった後、自分たちが対応しきれるか」という不安の裏返しなのです。

注目したいのは、この不安への“答え”がすでに市場に存在している、という点です。それが見守りサービスです。ところが──。

「知っている」9割、「導入している」2割──その差は何を語るか

同じ調査で、見守りサービスを知っている管理会社は90.1%にのぼりました※1。業界での認知は、ほぼ行き渡ったと言っていいでしょう。一方で、実際に導入している物件があると答えたのは19.5%。検討まで含めても4割弱にとどまります※1

9割が知っていて、2割しか入れていない。この差は、サービスへの無関心では説明がつきません。実際、「条件次第で導入したい」と答えた会社は49.1%と半数に迫ります※1。やる気がないのではなく、条件が揃っていない──それがこの数字の読み方ではないでしょうか。

では、その「条件」とは何か。導入に踏み切れない理由として調査に挙がったのは、「オーナーへの費用負担の交渉が難しい」「町内会や自治会の見守りでまかなえている」といった声でした※1。日々の管理業務に追われる現場では、月々の費用を誰が持つのかをオーナー一人ひとりに説明して回り、機器の設置や入居者への案内まで段取りする余裕は、正直なところ多くありません。壁は大きく3つ。「お金」と「手間」、そして入居者の「抵抗感」です。

第一発見者の半数は“職業上の関係者”──現場はすでに最前線にいる

壁のほどき方に入る前に、もう一つだけ、目をそらせないデータを共有させてください。

日本少額短期保険協会が2025年12月に公表した「第10回孤独死現状レポート」によると、賃貸住宅で亡くなった単身入居者が発見されるまでの日数は、平均で19日※2。15日以上たってから見つかるケースも、男性では3人に1人以上(35.7%)を占めます※2

そして第一発見者の内訳です。最も多かったのは親族ではなく、不動産管理会社やオーナーなどの「管理」で23.6%。行政や見守りサービスなどの「福祉」、警察まで含めた“職業上の関係者”が全体の50.4%と半数を超えました※2

この数字が示す現実は重いものです。見守りサービスを導入するかどうか迷っているあいだも、管理会社とオーナーは、すでに「最初に気づく人」の役割を事実上担わされている。導入の検討とは、ゼロから新しい仕事を増やすかどうかの話ではなく、いま偶然と巡回頼みで果たしている役割を、仕組みに置き換えるかどうかの話なのです。

先ほどの「町内会や自治会の見守りでまかなえている」という声も、裏を返せば、地域のつながりがまだ生きている物件だからこそ言えることです。かつて「向こう三軒両隣」が自然に果たしていた見守りは、都市部を中心に細りつつあります。第一発見者の半数が職業上の関係者という数字は、その空白を、住まいに関わる誰かが埋めざるを得なくなった現実の表れでもあります。

費用の面でも同じことが言えます。同レポートでは、孤独死が起きた居室の原状回復にかかった費用は2024年度の単年データで平均約61万円。遺品整理に約27万円、家賃保証の支払いも平均約39万円と報告されています※2。発見が遅れるほど損害は膨らみます。「発見までの19日」を縮めることは、入居者の尊厳を守ると同時に、経営リスクを直接減らす取り組みでもあるわけです。

見守りサービスの認知9割と導入2割のギャップを表した図解イラスト

壁のほどき方①「お金」──自治体の補助が動き始めた

ここからは、3つの壁を順にほどいていきます。まずは「お金」です。

流れを変えつつあるのが、自治体の後押しです。たとえば横浜市は、セーフティネット住宅や居住サポート住宅に入居する単身高齢者が使う見守りサービスを対象に、初期費用の半額(上限5,000円)と月額利用料の半額(上限1,000円・月/戸)を補助する事業を始めています※3。センサーなどで無理なく毎日見守れること、異常時に管理者や親族へ必ず連絡が届くことが要件で、まさに機器による見守りを正面から想定した制度です。

背景には、2025年10月に施行された改正住宅セーフティネット法があります※4。この改正で生まれた「居住サポート住宅」では、機器や訪問による安否確認、つまり“見守り”が認定の要件に据えられました。国の制度が見守りを正面から位置づけたことで、自治体の支援も具体化し始めています。「見守りの費用は誰が持つのか」という問いに、公的な支え手が加わりつつあるのです。

そもそも金額の桁を比べてみてください。横浜市の補助は、月額利用料の半額・上限1,000円という設計でした※3。月額2,000円ほどの見守りサービスなら半分を公費でまかなえる計算で、制度が想定する見守りの月々の負担は、その程度の水準だということです。一方、万一の際の原状回復は平均約61万円※2。オーナーへの提案は「新たなコスト」のお願いではなく、「61万円のリスクに月々わずかな金額で備える保険」として語れるはずです。

もちろん、すべての物件が補助の対象になるわけではありません。それでも、「行政がここまで見守りを後押しし始めた」という事実そのものが、オーナーとの会話を変えます。「うちの市にも似た制度がないか調べてみます」から始まる相談は、費用の話を“負担のお願い”から“使える制度の紹介”へと変えてくれるからです。

壁のほどき方②「手間」と③「抵抗感」──コンセントに挿すだけ、という答え

次に「手間」と「入居者の抵抗感」。実はこの2つの壁は、機器選びで同時にほどけます。

手間の正体は、工事です。配線や取り付けの工事が要る機器は、入居中の部屋では日程調整だけでひと仕事ですし、Wi-Fi環境が前提の機器は、通信環境のない高齢者の部屋には導入しにくい。管理会社が二の足を踏むのも無理はありません。

もう一つの抵抗感は、入居者の心理です。「カメラで見られるのは、監視されているようで嫌だ」という声は根強く、せっかくオーナーが費用を負担しても、住む人が受け入れてくれなければ意味がありません。

私たちが提供する「デナリ・コネレーション」は、この2つの壁を最初から想定して設計された見守りです。使うのはCO₂(呼吸)センサー。人が呼吸することで生まれる部屋の空気のわずかな変化から、在・不在や安否を見守ります。カメラも音声も一切使わず、映像も音も記録しません。見られたくない暮らしぶりには、そもそも触れない仕組みです。そして設置は、工事もWi-Fiも不要で、コンセントに挿すだけ。入居中の部屋でも、その日のうちに見守りを始められます。

さらに、反応がないときには「お出かけですか」「お加減はいかがですか」と一声かける──その連絡のやりとり自体が、入居者にとって“気にかけてもらえている”というゆるやかなつながりになります。監視ではなく、つながりとしての見守り。抵抗感の壁は、機器の選び方と声のかけ方で、ここまで低くできます。

木造住宅の畳の部屋で穏やかにお茶を飲む高齢女性の写真イメージ

導入2割の今こそ、「見守れる経営」は選ばれる

最後に、視点を経営に戻しましょう。

「条件次第で導入したい」が49.1%※1──この数字は、見守りサービスの導入がこれから一気に進む可能性を示しています。裏を返せば、導入済みがまだ2割の今は、「見守りのある物件」がはっきりと差別化になる時期だということです。

高齢の入居希望者やそのご家族の立場で想像してみてください。「高齢の方はちょっと……」と渋られる物件が続くなかで、「うちは見守りの仕組みがあるので、安心してどうぞ」と言ってくれる物件に出会えたら。選ばれる理由としてこれほど分かりやすいものはありません。断る理由を一つ減らすことは、入居対象を広げ、空室期間を縮めることに直結します。

しかも、高齢の入居者は“長く住んでくれる”借り手でもあります。同じアットホームの調査で60歳以上の賃貸入居者288人に尋ねたところ、住み替えに消極的な人は48.6%と半数近くにのぼりました※1。理由の上位は、引越し資金の負担、そして今の住まいと地域への愛着です。頻繁な入退去がなく、部屋を丁寧に使い、地域に根を張って暮らす──空室と原状回復に悩む経営にとって、これは望ましい入居者像そのものではないでしょうか。見守りという安心の土台さえあれば、の話ですが。

そして、この選択はいずれ標準になっていきます。国の制度は見守りを前提に動き始め※4、自治体の補助も広がりつつある※3。5年後、「まだ見守りがない物件」と「当たり前にある物件」のどちらが選ばれるようになるか。その行方は、ここまで見てきた数字の流れがすでに物語っています。

コンセントに設置されたCO2見守りセンサーと、縁側で過ごす高齢男性の写真イメージ

「知ってはいるんだけどね」で止まっていた見守りを、動かすための条件は揃い始めています。認知9割の時代に、導入する2割の側へ──先に回った人から、選ばれていくのではないでしょうか。

出典一覧

  • ※1 アットホーム株式会社「高齢者の賃貸居住に関する調査」(2026年)|発表ページ
  • ※2 日本少額短期保険協会 孤独死対策委員会「第10回孤独死現状レポート」(2025年12月)|発表ページ
  • ※3 横浜市「セーフティネット住宅等見守りサービス補助事業」(2026年)|事業ページ
  • ※4 国土交通省「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律について」(令和7年10月1日施行)|制度ページ

「高齢者はお断り」を続けますか──法改正が促す“見守り前提”の賃貸経営

「高齢者はお断り」を続けますか──法改正と見守りをテーマにしたコラムのアイキャッチ

「高齢の単身者は、正直まだ受け入れづらい」「空室は埋めたい。けれど、万一のことを考えると、どうしても手が止まってしまう」──。賃貸オーナーや管理会社の方から、私たちは今もこうした本音を聞きます。

誤解しないでいただきたいのは、その多くが「高齢者が嫌いだから断る」わけではない、という点です。むしろ「何かあったとき、自分たちが責任を持って対応しきれるだろうか」という不安の裏返しなのです。とはいえ、日本の高齢化と単身化は、貸す側の心の準備が整うのを待ってはくれません。

その状況に、一つの現実的な答えを示したのが、2025年10月に施行された改正住宅セーフティネット法です※1。この記事では、新しく生まれた「居住サポート住宅」という仕組みと、その中心に据えられた“見守り”という考え方、そしてオーナー・管理会社がこれからどう向き合えるのかを、順を追ってお伝えします。

大家の約4割が「受け入れていない」──それは冷たさではなく、不安

ある調査では、高齢者を「受け入れていない」と答えた賃貸オーナーが約4割にのぼりました※2。数字だけを見ると、高齢者に冷たい業界のように映るかもしれません。けれど、現場の声に耳を澄ますと、その印象は少し変わります。

オーナーがためらう最大の理由は、居室内で入居者が亡くなる事態、いわゆる孤独死への不安です。国の資料でも、高齢者の入居に慎重になる背景として、居室内での死亡事故への懸念が理由の大半を占めると指摘されています※1。発見が遅れれば原状回復に大きな費用がかかり、次の入居希望者への説明が必要になることもある。残された家財の処分に頭を悩ませる場面もあります。

日々入居者と向き合う管理の現場では、こうした「もしも」が決して他人事ではありません。断るという判断は、冷たさからではなく、「一人で抱えきれる自信がない」という誠実さの裏返しであることも多いのです。問題は、その不安をオーナーが一人で背負い込むしかない、という構造そのものにありました。

たとえば、家賃の支払いに不安がなく、人柄も申し分ない高齢の申込者であっても、「体調を崩して連絡が取れなくなったとき、最初に気づくのは誰なのか」が見えないと、貸主はどうしても慎重になります。頼れる親族が近くにいない単身の方なら、なおさらです。裏を返せば、その“最初に気づく役割”を誰かが担ってくれさえすれば、受け入れのハードルはぐっと下がる、ということでもあります。

それでも“断り続ける経営”は、続けにくくなる

とはいえ、不安を理由にずっと断り続けられるかというと、話はそう単純ではありません。

内閣府の令和8年版高齢社会白書によると、2025年10月時点の高齢化率は29.4%に達しました※3。およそ3.4人に1人が65歳以上という時代です。配偶者に先立たれたり、子どもが遠方で暮らしていたりと、単身で老後を送る人はこれからも増えていきます。賃貸住宅を必要とする高齢者の層は、確実に厚みを増していくのです。

住まいを探す側の苦労も、私たちが想像する以上に深刻です。R65の実態調査では、高齢者のおよそ4人に1人以上が、年齢を理由に入居を断られた経験を持つと報告されています※2。借りたい人がこれだけいて、貸せる部屋は限られている。この需要と供給のねじれは、逆に言えば、受け入れる側に回ったオーナーにとっての空室対策の余地でもあります。断り続ける経営は、これから先、じわじわと空室リスクとなって返ってくるかもしれません。

これから賃貸市場に出てくる借り手の顔ぶれは、静かに変わりつつあります。若い単身者の数が細っていく一方で、部屋を必要とする高齢の単身者は増えていく。若年層だけを当て込んだ空室対策には、いずれ限界が見えてきます。高齢の入居希望者にきちんと向き合えるかどうかが、これからの賃貸経営の分かれ目になっていくはずです。

増え続ける単身高齢者と、受け入れる賃貸住宅のギャップを表した図解イラスト

2025年秋、国が用意した「居住サポート住宅」

オーナーの不安と、高齢者の住まい不足。その両方に橋を架けようとするのが、2025年10月1日に施行された改正住宅セーフティネット法です※1

正式名称は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律」といいます。名前は少し長いのですが、狙いは明快です。高齢者や低所得者など、住まいの確保に配慮が必要な人が安心して部屋を借りられるようにすること。そしてその裏側で、貸すオーナーの不安も軽くすることにあります。

この改正で新しく生まれたのが「居住サポート住宅」という枠組みです。居住支援法人などが大家と連携し、入居者の安否確認や見守り、困りごとが起きたときに相談窓口へつなぐといったサポートを担います。住宅そのものを自治体が認定する形をとり、認定制度は2025年10月から動き始めました※4。オーナーが単身高齢者を受け入れるとき、これまで一人で背負っていた「もしも」への備えを、仕組みとして分かち合えるようになったのです。

では、オーナーが何もかも自分で背負うのかというと、そうではありません。居住サポート住宅では、見守りや相談対応といった実務を居住支援法人などが担い、オーナーは住まいを提供する側に回ります。役割がはっきり分かれることで、これまで貸主一人にのしかかっていた「もしも」の重さが、関わる人たちの間で分けられていくのです。

国が“見守り”を要件にした、という事実

ここで注目したいのが、居住サポート住宅に求められるサポートの中身です。国はその中心に、はっきりと“見守り”を据えました。

認定を受けるための要件では、入居者の安否確認について、常時作動して異常を検知する通信機器を設けるか、あるいは1日に1回以上の訪問などで確認することが求められます※4。この通信機器には、センサーやスマートメーター、IoT家電といったICT(情報通信技術)の活用が想定されています。加えて、月に1回以上は訪問などで入居者の心身や暮らしの状況を確かめる見守りも要件です※4

見守りといっても、四六時中、誰かが室内を監視するわけではありません。ふだんは機器が静かに安否を確かめ、生活のリズムに気になる変化があったときだけ、人が動く。「ふだんは邪魔をせず、いざというときに気づける」というバランスこそ、入居者にとっても貸主にとっても無理のない見守りの形ではないでしょうか。

言い換えれば、「何かあってから動く」のではなく「異変の兆しに早く気づく」ことを、国が制度として求め始めたわけです。かつては向こう三軒両隣が自然に果たしていた見守りの役割を、これからは意識して仕組みとして持とう──改正法の底に流れているのは、そうした発想の切り替えだと私たちは受け止めています。

木造住宅の縁側で穏やかに過ごす80代の男性の写真イメージ

「監視」ではなく「気にかける」──デナリ・コネレーションという見守りの形

とはいえ、見守りと聞くと、入居者側から「監視されているようで落ち着かない」という声が上がりがちです。カメラや音声で室内を捉える機器には、心理的な抵抗を覚える人が少なくありません。せっかく制度が見守りを後押ししても、住む人が身構えてしまっては本末転倒になってしまいます。

そこで一つの選択肢になるのが、CO₂(呼吸)センサーで人の在・不在や安否を見守る「デナリ・コネレーション」です。カメラも音声も一切使わず、部屋の空気の状態だけを見ています。映像も音も記録しないため、入居者にとっての心理的な負担が小さいのが持ち味です。工事もWi-Fiもいらず、コンセントに挿すだけで使い始められます。制度が想定するICTを使った安否確認という考え方を、住む人が受け入れやすいかたちで届けられる。そこにこの仕組みの意味があります。

CO₂センサーが捉えているのは、人が呼吸することで生まれる、部屋の空気のわずかな変化です。在宅しているのか、外出しているのか。いつもの生活リズムが保たれているのか。姿を映さなくても、暮らしの“いつもと違う”を、空気の動きから静かに感じ取れます。プライバシーを守りながら異変の兆しに気づける──ここが、映像に頼る見守りとの大きな違いです。

そして見逃せないのが、反応がないときに連絡を取り、「お出かけですか」「お加減はいかがですか」と一声かける、その先のやりとりです。見守りは、使い方しだいで“誰かに気にかけてもらえている”という、ゆるやかなつながりにもなり得ます。監視ではなく、つながりとしての見守り。それは、国が制度で目指した方向とも、静かに重なっているように思います。

木造住宅のコンセントに設置されたCO2見守りセンサーと、和室でくつろぐ高齢女性の写真イメージ

「断る経営」から「見守れる経営」へ

見守りの仕組みを持つことは、入居者の安心だけでなく、オーナーや管理会社にとっても実利があります。

万一のとき、早い段階で異変に気づければ、原状回復の負担や、担当者がつらい現場に直面する事態を避けやすくなります。運用の現場では、こうした早めの気づきが最悪の事態を防いだ、という声も聞かれます。そして何より、見守りという安心の土台があれば、これまで「お断り」せざるを得なかった単身高齢者を、受け入れる側に回れるようになります。

見守りの仕組みは、入居後の日々にも効いてきます。体調のちょっとした変化に早めに気づければ、必要なときに家族や支援者へ連絡を回せます。入居者にとっては「見られている」ではなく「気にかけてもらえている」という安心に、貸主にとっては「何かあっても初動を取れる」という備えになる。ひとつの仕組みが、住む人と貸す人の双方の安心を同時に支えてくれるわけです。

それは入居対象を広げ、空室の期間を縮め、収益を底上げすることにつながっていきます。リスクを恐れて間口を狭める経営から、リスクを仕組みで管理して機会を広げる経営へ。今回の法改正は、その背中を押す制度だと言えます。高齢者の受け入れは、もはや守りの妥協ではなく、“攻め”の一手にもなり得るのです。

「高齢者はお断り」と書き続ける経営を、この先も続けますか。それとも、見守れる仕組みを手にしたうえで、受け入れる側に回りますか。断るしかなかった時代は、少しずつ終わりに近づいています。

出典一覧

  • ※1 国土交通省「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律について」(令和6年法律第43号/令和7年10月1日施行)|発表ページ
  • ※2 株式会社R65「高齢者向け賃貸に関する実態調査(賃貸オーナー向け)」ほか高齢者の住まいに関する実態調査|発表ページ
  • ※3 内閣府「令和8年版高齢社会白書」(2026年6月公表・2025年10月現在の高齢化率29.4%)|発表ページ
  • ※4 厚生労働省「居住サポート住宅情報提供システムの公開(居住サポート住宅認定制度)」(令和7年10月1日開始)|発表ページ

「熱中症は屋外で起きる」は思い込み?──搬送10万人時代の“室内リスク”と夏の見守り

熱中症は部屋の中で起きている──夏の室内熱中症と見守りをテーマにしたコラムのアイキャッチ

「夏になると、単身の高齢入居者のことが気になって仕方がない」「エアコンは付けてあるから、大丈夫だと思いたい」──。猛暑が当たり前になったいま、賃貸の現場からはこんな声が聞こえてきます。

実は、熱中症はもう“炎天下の事故”ではありません。救急搬送の発生場所で最も多いのは、屋外ではなく「住居」。つまり、入居者が暮らすお部屋の中です。

本記事では、2025年夏の最新データをもとに、室内熱中症の実態と、賃貸オーナー・管理会社にできる夏の備えを考えます。

救急搬送10万人──熱中症は「屋外の事故」ではなくなった

まず、直近の夏に何が起きていたかを数字で押さえます。

消防庁のまとめによると、2025年5月から9月の熱中症による救急搬送は、全国で10万510人。統計を取り始めた2008年以降で、最も多い人数を更新しました※1。そのうち65歳以上の高齢者は5万7,433人と、全体の57.1%を占めています。初診の時点で入院が必要な「中等症以上」と診断された方も約36%にのぼり、決して軽い症状では済んでいません。

そして見逃せないのが、発生場所の内訳です。最も多いのは「住居」で約38%。道路(約20%)や仕事場(約11%)を大きく引き離し、住まいの中こそが熱中症の最多発生場所になっています※1

熱中症の多くが住まいの中で起きていることを表した家の断面図解イラスト

しかも搬送は5月から始まり、9月まで続きます。夏が長くなったぶん、警戒すべき期間も延びました。「日中の外出さえ控えてもらえば安心」という感覚は、残念ながらもう実態と合っていないのです。

「エアコンはあるのに、使われない」──室内で亡くなる方の実像

では、部屋の中でいったい何が起きているのでしょうか。

夏の木造住宅の和室でうちわを手に過ごす70代の女性の写真イメージ

手がかりになる研究があります。東京大学と東京都監察医務院の研究チームが2025年6月に公表した分析で、東京23区で2013年から2023年までに熱中症で亡くなった1,447例を調べたものです※2

亡くなった方の約9割にあたる1,295例は、屋外ではなく室内で見つかっていました。内訳を見ると、「エアコンがオフだった」が581例、「そもそも設置されていない」が381例、「故障していた」が129例。そして「エアコンはついていた」のに亡くなった方も84例ありました。設定温度が高すぎた、送風のままだった──そんな“機械はあっても正しく働いていなかった”ケースが含まれるとみられます。

こうした状況を踏まえて研究チームは、室内で亡くなった方の16.4%にあたる213例について、「エアコンを適切に使いこなせていなかったことが死亡につながった」と推測しています※2。しかも、こうした事例の約8割は一人暮らしや高齢者世帯だったといいます。

高齢になると、暑さやのどの渇きを感じにくくなることが知られています。「電気代がもったいないから」と冷房を我慢する方も少なくありません。つまり分かれ目は、エアコンという設備があるかどうかではなく、“その日、ちゃんと使えているか”。そして、その異変に周りの誰かが気づけるかどうかです。

なぜ賃貸オーナー・管理会社に関わる話なのか

ここで、賃貸経営の話に戻ります。

厚生労働省が2025年に公表した国民生活基礎調査では、単身高齢者世帯は903万世帯と過去最多を更新しました※3。入居者に占めるおひとり暮らしの高齢者の割合は、これからも増え続けていきます。

一方で、現場の不安も根強いままです。不動産情報サービスのアットホームが2026年2月に全国632社の賃貸管理会社へ行った調査では、直近1年で高齢を理由に入居をお断りした経験のある会社が49.2%。孤独死への不安を挙げた会社は84.0%にのぼり、事故物件になることへの懸念(38.4%)や残置物処理への不安(37.0%)が続きます※4

夏の室内熱中症は、いわばこの「孤独死リスク」の夏版です。発見が遅れれば入居者の命に関わることはもちろん、原状回復や告知への対応、次の募集への影響と、経営面の負担も連鎖していきます。だからこそ、「不安だから受け入れない」ではなく、「早く気づける部屋にして受け入れる」への切り替えが、現実的な選択肢になってきました。

今日からできる夏の備え──費用をかけない工夫から

見守り機器の話に入る前に、まず費用をかけずにできることを整理します。

先ほどの研究で室内死亡の内訳を思い出してください。「設置なし」が381例、「故障」が129例。つまり、設備そのものの点検だけでも防げる余地があるということです。そのうえで、次のような工夫は今日から始められます。

  • 入居時・更新時・設備点検のタイミングに、エアコンの動作確認を組み込む(「設置なし」「故障」への対策)
  • 夏前に「熱中症予防のご案内」を全戸に配り、あわせて緊急連絡先やご家族の連絡先の最新化をお願いする
  • 巡回や検針、共用部の清掃の動線に、「顔を見たらひと声かける」を足す

かつては「向こう三軒両隣」の近所付き合いが、自然な見守りの役割を果たしていました。その代わりを、管理の日常業務に少しだけ組み込むイメージです。

ただし、こうした工夫には限界もあります。訪問や声かけは「誰かが行った日」しか機能しません。閉め切った部屋の中で、誰にも会わない日に起きる異変──そこを補うのが、機器による見守りです。

「気づける部屋」にする──見守りサービスという選択肢

サービスとしての「見守り」は、実はまだ普及の途上にあります。アットホームの同じ調査では、見守りサービスを「知っている」管理会社は90.1%。ところが、実際に導入している物件があると答えたのは19.5%にとどまりました※4。認知と導入の間に、大きな溝が横たわっています。

背景には「オーナーへの費用負担の相談が難しい」といった事情があるようです。ただ、見守りの手段はこの数年で大きく広がりました。スタッフが定期的に訪ねる訪問型。電気やガスの使用状況から生活リズムを推測するライフライン型。そして、お部屋に置いたセンサーで安否を確かめるセンサー型です。

どの方法にも一長一短があり、“これさえ入れれば正解”という機器はまだ存在しません。大切なのは、入居者の暮らしぶりと物件の条件に合わせて、「異変が起きてから気づくまでの時間」をどれだけ縮められるか、という視点です。

CO2で“生活の気配”を見守る──デナリ・コネレーションの場合

私たちが提供する「デナリ・コネレーション」は、CO2(呼吸)によって人の在・不在や安否を判定する見守りセンサーです。カメラも音声も一切使わず、映像も音も記録しません。「監視されているようで嫌だ」という入居者の心理的な抵抗を抑えられるのが特長です。工事もWi-Fiも不要で、コンセントに挿すだけ。いまある物件に、夏に間に合うかたちで後付けできます。

木造住宅のコンセントに設置されたCO2見守りセンサーと、和室でくつろぐ80代の男性の写真イメージ

夏場にこの仕組みが力を発揮するのは、「在室しているはずなのに、いつもの気配と違う」に気づけることです。反応が乏しいときには、管理会社やご家族が電話やインターホンでひと声かけます。「お変わりありませんか」「暑くなってきましたが、エアコンは動いていますか」──そのやりとりが、閉め切った部屋で静かに進む重症化を防ぐきっかけになり得ます。

私たちも日々、入居者さまやご家族、管理会社の皆さまと接するなかで、「気にかけてもらえている」という安心感そのものが暮らしの支えになる場面を何度も見てきました。見守りの現場では、早めの声かけが“最悪の事態”の回避につながった例も実際に報告されています。見守りは単なる安否確認の道具ではなく、入居者との緩やかなつながりでもある──前回の記事(「高齢者の入居は怖い」は本当か?)でご紹介した考え方は、夏にこそ生きてきます。

「夏を越せる物件」は、選ばれる物件になる

国の制度も、同じ方向に動き始めています。2025年10月に施行された改正住宅セーフティネット法では、「居住サポート住宅」の認定制度が始まりました※5。ICTを使った安否確認と、支援法人などによる見守り・相談対応を組み合わせた賃貸住宅を、国がお墨付きを与えて後押しする仕組みです。見守りのある賃貸住宅は、特別な取り組みではなく“標準の選択肢”になりつつあります。

オーナーにとっての意味は、リスク対策だけではありません。903万に達した単身高齢者世帯は、見方を変えれば「見守りさえあれば、長く安心して住んでいただける入居者層」です。夏の暑さも、冬場のヒートショックも、1年を通じて気づける体制があること。そうした物件は、入居者本人にもご家族にも、そして仲介する管理会社にも選ばれやすくなります。

「怖いから断る」経営から、「備えて受け入れる」経営へ。夏は、その一歩を踏み出すのにいちばん説得力のある季節です。

この夏、入居者の無事を運まかせにしない仕組みを、一部屋からでも始めてみませんか。

出典一覧