入居者が亡くなった後の対応は?──国のモデル契約条項から考える、契約解除・残置物処理への備え

2026年10月13日

賃貸管理会社の担当者と高齢の入居希望者が、入居前に契約書を一緒に確認している写真イメージ(アイキャッチ)

入居者が入院先で亡くなった。相続人は分からない。部屋には家財が残ったまま、次の募集もかけられない──。国のガイドブックも、こうした大家さんの苦労から説明を始めています。[2]

見守りをつけても、家賃保証があっても、この状況は防げません。

異変に気づくこと、家賃の支払いに備えることは大切です。しかし、入院したときの連絡や手続き、亡くなった後の賃貸借契約の解除、室内に残された家財の処理は、それぞれ別の対応です。「何かあったら、この人に連絡する」という連絡先だけでなく、その先の対応を誰が引き受けるのかまで見えている必要があります。

先日、業界団体の幹部の方と高齢者の入居支援についてお話しする機会がありました。身元引受人の重要性や、実務を担う体制と費用について伺い、私が改めて考えたのは、制度やサービスを実際の対応につなげる役割分担の大切さです。

国土交通省・法務省が用意した「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を入口に、入居者が亡くなった後の契約解除と残置物処理について、管理会社・オーナーが入居前から備えておきたいことを考えます。

亡くなっても、契約は終わらない

入居者が亡くなると、原則として賃借権と家財の所有権は相続人に引き継がれます。死亡したというだけで、大家さんが自由に契約を終わらせたり、荷物を処分したりできるわけではありません。相続人の有無や所在が分からなければ、手続きが進まないことがあります。[1]

国土交通省・法務省は、こうした不安が高齢者への貸し控えにつながっているとして、2021年6月にモデル契約条項を策定しました。問題は、室内での死亡だけではありません。入院先で亡くなった場合にも、契約や家財の整理は必要になります。[1・2]

ここから読み取れるのは、高齢者の入居を支えるには、孤独死の発見遅れへの対策に加えて、死亡後の手続きを進められる備えも必要だということです。

入居者の家財が残ったままになっている賃貸住宅の一室の写真イメージ

生前の2つの契約で、「亡くなった後」を任せておく

中心となるのは、入居者が生前に受任者と結ぶ2つの契約です。1つは、死亡後に賃貸借契約を終了させるための「解除関係事務委任契約」。もう1つは、契約終了後の家財の送付や処分などを委託する「残置物関係事務委託契約」です。受任者は同じでも、別々でも構いません。[2]

この仕組みは、本人の意思と契約に基づいて手続きを進めるためのものです。契約書を用意すれば、死亡直後にすべての荷物を自由に処分できる、という意味ではありません。家財の廃棄や換価は、原則として死亡から3か月などの一定期間が過ぎ、賃貸借契約が終わった後に行います。本人が「捨てないでほしい物」として指定した物は、指定先へ送ります。換価で得たお金などは費用を差し引いて相続人に返し、相続人が分からなければ供託します。[2・7]

高齢の入居者が、残してほしい大切な品に目印のシールを貼っている写真イメージ

2025年10月に更新されたQ&Aでは、管理会社が入居前の判断に使える点が明確になりました。[1・7]

  • 原則は60歳以上の単身者。60歳未満でも、推定相続人がいないなど、死亡後に連絡を取れる人が期待できない場合は活用できる
  • 既存入居者についても、単身高齢者で残置物処理のリスクが高い場合などに、本人が内容を十分に理解し、合意したうえで利用できる。賃貸借契約に特約を加えるなら、契約の変更が必要
  • 残置物処理への不安が生じにくい場面で利用すると、民法や消費者契約法に反して無効となる場合がある

居住支援法人なら、どこでも頼めるわけではない

2025年10月1日施行の改正住宅セーフティネット法では、居住支援法人の業務に、入居者からの委託に基づく死亡後の残置物処理等が追加されました。モデル契約条項の活用を基本に、担い手を制度上も位置づけたものです。[3]

ただし、居住支援法人であれば、どこでも同じ対応ができるわけではありません。この業務を行うには、法人の指定または業務変更の認可に加え、残置物処理等業務規程を定め、都道府県知事の認可を受ける必要があります。依頼先を探す際には、名称だけでなく、業務の認可、対象地域、受託条件を確認する必要があります。[4]

制度があることと、自分の管理物件で頼める相手が決まっていること。その間をつなぐ準備が、現場には必要です。

居住支援法人の担当者が、高齢の入居者と管理会社の担当者に死後の事務について説明している写真イメージ

受任者は誰にするか──利害の対立にも注意

入居前に決めておきたいことの中心は、受任者を誰にするかです。国のQ&Aは、次のように整理しています。[7]

候補考え方
推定相続人まずは推定相続人のいずれかとするのが望ましい
居住支援法人・管理業者などの第三者推定相続人に頼むことが難しい場合に想定される
家賃債務保証業者入居者と利害が対立しやすく、公序良俗に反して無効と判断される可能性がある

管理会社が受任者になる場合には、注意が要ります。サブリースなどで管理会社が転貸人(賃貸人)の立場にあるときは、受任者とすることは避けるべきとされています。そうでない場合も、オーナーの利益を優先せず、入居者(の相続人)の利益のために誠実に対応する必要があります。[7]

また、物件の管理会社が変わっても、受任者の地位は新しい管理会社に当然には引き継がれません。入居者の承諾を得て移すか、契約を結び直す必要があります。[7] 管理を受託する物件で受任者を引き受けるなら、管理契約が終わったときの扱いまで、入居前に決めておくと安心です。

「緊急連絡先がいる」と「死後を任せている」は別

この面談で伺った身元引受人の重要性を、私は「何か起きたときに、実際に対応を引き受ける相手がいるか」という問いとして受け止めました。

例えば、入院の連絡を受ける人、必要な手続きや生活上の支援をする人、死亡後に部屋の契約や家財を整理する人。これらを、1つの「身元引受」という言葉でまとめると、どこまで頼めるのかが曖昧になります。

国の「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」も、身元保証等、死後事務、日常生活支援を分けて整理し、サービス内容は事業者と利用者の契約で決まるとしています。[5]

緊急連絡先に名前があることと、死後事務を委任されていることは別です。家族がいる場合にも、何をお願いできるかを確認する。専門事業者に頼む場合にも、対応範囲を契約で確かめる。肩書きより、その人や事業者が引き受ける具体的な内容が重要です。

管理会社が確認したい、5つの役割

以下は、入居前の確認に使うための整理です。全員に同じサービス一式を求めるのではなく、本人の希望や家族の協力状況に合わせ、足りない役割を確かめます。

備えたいこと主な対応先・仕組み確認する内容
異変への気づきと状況確認見守り・安否確認の運用通知後に誰が確認し、必要な対応へつなぐか
家賃の支払い家賃保証保証の範囲・期間・対象外となる条件
死亡に伴う費用対応する保険等清掃・原状回復等の補償範囲、限度額、対象外の費用
入院時などの連絡・支援家族、身元引受・生活支援の事業者等連絡の受領だけか、手続きや付き添いまで含むか
死亡後の契約解除・家財の整理死後事務の受任者権限、作業範囲、費用、処理の手順

※サービス名称だけでは対応範囲は確定しません。保険や保証は個別の約款・契約、委任する事務は契約内容を確認します。

本稿で扱っているのは、このうち最後の「死亡後の契約解除・家財の整理」です。見守りから費用への備えまでの全体像は、孤独死対策とは?賃貸管理会社・オーナーが行うべき8つの実務で整理しています。

契約書があっても、動く人と費用がなければ止まる

先の面談では、事務を担う体制と、それを維持する費用も課題になりました。これを踏まえ、私は、サービスを紹介するだけでなく、管理会社の担当者にどの作業が残るのかまで整理すべきだと考えています。

例えば、死亡後の残置物処理を頼める相手がいても、誰が最初に連絡し、契約書や必要な情報を渡すのかが決まっていなければ、その場で調整が始まります。搬出や保管などに費用がかかる場合、誰が支払い、契約に含まれない費用をどう扱うのかも確認が必要です。

そのため私は、誰が何を担い、費用を誰が持つのかを、入居前に一覧にしておくことを勧めています。項目は、この記事の最後にまとめました。

また、入居時の準備で終わりにはできません。連絡先や支援者が変わったときに、誰が情報を更新するかも決めておく必要があります。担当者個人の記憶に頼らず、引き継げる形にすることが、継続する支援につながります。

賃貸管理会社の担当者が、契約書や連絡先リストなどの引き継ぎ資料を整理している写真イメージ

見守りは、異変の把握と状況確認を担う

デナリ・コネレーションが担うのは、孤独死の発見遅れを防ぐための見守りです。CO₂濃度の変化を手掛かりに、専任スタッフがアラートを確認し、必要に応じて入居者へ電話。確認結果を管理会社へ共有し、次の対応につなげます。[6] 異変の通知後、現地確認を誰が担うかについては、見守りの「駆けつけ」は誰が担うのかで詳しく書いています。

寝室のコンセントに設置されたCO₂見守りセンサー「デナリ・ボッツ」の写真イメージ

CO₂データだけで死亡や無事を確定するものではなく、救命を目的とするサービスでもありません。また、見守りによって、死亡後の契約解除や残置物処理の権限が生まれるわけではありません。そこは別の備えが必要です。

実際に、デナリの見守りを導入している管理会社のアミックス様では、亡くなった後の備えとして、死後事務委任の仕組みもあわせて取り入れています。アミックス様は、この2つを「両輪」と位置づけています。異変に気づく仕組みと、亡くなった後を引き受ける仕組み。どちらか一方だけでは、高齢の入居者を安心して受け入れる体制にはなりません。

異変に気づく人、状況を確認する人、その先の事務を引き受ける人。それぞれの役割をつないでおくことで、管理会社が対応のたびに一から調整する負担を減らすことを目指します。

入居前に決めておく5つのこと

管理会社としては、少なくとも次の5つを、入居前に一覧にしておくことを勧めます。

  • 1. 最初の連絡先:異変や死亡を知ったとき、最初に誰へ連絡するか
  • 2. 対応の責任者:契約解除と家財の整理を引き受ける受任者は誰か
  • 3. 対応時間と不通時の連絡先:夜間・休日や、連絡がつかないときに次に誰へつなぐか
  • 4. 費用の負担者:搬出・保管などの費用を誰が負担し、契約に含まれない費用をどう扱うか
  • 5. 引き継ぐ情報:契約書、指定残置物のリスト、緊急連絡先など、受任者に渡すもの
入居の日に、管理会社の担当者が高齢の入居者とご家族に鍵を手渡している写真イメージ

高齢者の入居を支えるために、管理会社があらゆる支援を自社で抱える必要はありません。必要なのは、本人の意向を踏まえ、誰が何を引き受け、どこで次の担当へつなぐのかを明確にすることです。

モデル契約条項は、そのための重要な手段です。そこに、実際に動ける担い手と継続できる費用・体制を組み合わせる。「高齢者だから不安」で止まらず、自社の物件で何を備えれば受け入れられるのかを、一つずつ具体的にしていきたいと考えています。

デナリ・コネレーションの見守り・安否確認の運用については、サービス紹介ページをご覧ください。

出典・参考資料

  • [1]国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」掲載ページ(ガイドブック第2版・Q&Aの2025年10月更新を確認)|掲載ページ
  • [2]国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項の活用ガイドブック」第2版、2025年10月|PDF
  • [3]国土交通省「住宅セーフティネット制度」改正法施行・居住支援法人による残置物処理|掲載ページ
  • [4]国土交通省「残置物処理等業務規程の作成・認可の手引き」2025年6月、冒頭・問1|PDF
  • [5]関係府省「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」2024年6月、第1・2(対象)、表1|PDF
  • [6]デナリ・コネレーション公式サービス紹介|掲載ページ
  • [7]国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項に係るQ&A」2025年10月更新、QA1〜7・16・18・19|PDF

資料確認日:2026年10月6日。面談部分は、竹本による面談内容の要約と、その内容を踏まえた考察です。発言の逐語引用ではありません。

※本記事は一般的な制度の概要および実務上の留意点を整理したものです。実際の個別物件における契約締結や特約の付与、法的手続きの実施にあたっては、弁護士や司法書士等の専門家、または管轄の行政窓口へご相談ください。

本記事は、2026年7月21日に公開した記事を全面改訂したものです。

この記事を書いた人

竹本 光伸

日伸貿易株式会社(デナリ・コネレーション提供元)代表取締役

高齢者入居を安全な収益源に変える、関係者全員が報われる経営戦略

「リスクがあるから貸さない」から、「仕組みがあるから受け入れる」へ。

「これからは高齢者の入居を受け入れなければ、空室が埋まらなくなる」。賃貸管理に携わる経営者なら、誰しもこの現実に気づいているはずです。

地域の人口構造が大きく変わり、単身高齢者の割合が増加するのに伴い、時代に合わせて「高齢者の入居を安全に受け入れられる態勢を今から整えること」こそが、これからの賃貸管理経営に問われている重要なテーマとなっています。

この問題に適切な対策を講じれば、関係者全員が利益を得られる道が開けます。

  • 入居者:拒否されず、安心して暮らせる住まい
  • オーナー:空室期間を短縮し、資産価値を守る備え
  • 管理会社:現場を守りながら、持続的な収益を得る仕組み
  • 行政:地域で暮らし続けられる住まいの選択肢

本記事では、現場が動けない構造的な理由を紐解きながら、現場・法務・金銭の3つの負担を整理し、高齢者受け入れを持続可能な経営戦略へと変える道筋を考えます。

※記事の最後に「貴社の高齢者受け入れ 現在地と5年後・10年後の経営シミュレーション」をご用意しています。地域と自社を比較する簡易版は、会社名や連絡先の入力なし・無料でご利用いただけます。

高齢者入居を安全な収益源に変える賃貸管理経営戦略のイメージ(アイキャッチ)

1. はじめに:誰もが知っている「臨界点」と、動けない現場

「単身高齢者の入居を受け入れなければ、今後の空室対策は立ち行かなくなる」。賃貸管理業界に関わる経営者や実務層であれば、誰もがこの事実に気づいています。我が国の単身高齢者世帯は急速に増加の一途をたどり、地方都市のみならず首都圏においても、若年層の奪い合いによる空室期間の長期化が明らかな傾向として表れています。

しかし、各種の調査データが示す現実は極めて厳しいものです。国土交通省の各種調査や関連団体の実態調査によれば、単身高齢者の入居に対して拒否感や不安を抱くオーナー・管理会社は約7割に達しています。頭では「高齢者を受け入れなければならない」と分かっていながら、実際の現場では「70歳以上は原則お断り」「保証人がいても難色を示される」という運用が今なお続いています。

事務所で管理物件の入居状況と空室データを確認する賃貸管理会社の担当者の写真イメージ

市場の需要と供給の間には、巨大な断絶が存在しています。この断絶は、単なる「オーナーの偏見」や「現場の意識不足」といった精神論で片付けられるものではありません。そこには、現在の賃貸管理業界が構造的に抱える深い課題と、現場が直面している切実なリアルが存在します。

2. なぜ高齢者受け入れは進まないのか——現場とオーナーが抱える3つの構造的リアル

なぜ、需要が存在すると分かっていながら、現場は一歩を踏み出せないのでしょうか。そこには3つの大きなハードルが存在します。

① オーナー説得の窮地と「丸腰の営業現場」

管理会社の担当者が高齢の入居希望者を受け入れようとするとき、最初に直面するのがオーナーへの説明責任です。「万が一、室内で孤独死が発生したら事故物件になるのではないか」「家賃下落や原状回復費用はどうするのか」というオーナーからの当然の問いに対し、現場担当者が手元に提示できる「安全の根拠」や「事故物件化を防ぐ運用の裏付け」は極めて乏しいのが実状です。根拠のない精神論でオーナーを説得することはできず、結果として「お断りする」という選択にならざるを得ません。

賃貸管理会社の担当者がオーナーに高齢者受け入れのリスクと対策を説明している打ち合わせの写真イメージ

② リスクとリターンの非対称性と「現場の防衛本能」

1戸の賃貸管理によって得られる管理手数料は、月額わずか数千円程度です。一方で、万が一室内で事故や死亡が発生した場合、現場担当者が背負う業務的・精神的負担は甚大です。警察の立ち会い、遺族対応、近隣からの苦情処理、特殊清掃の手配など、通常業務を大幅に圧迫する泥臭い対応が重くのしかかります。どれだけ管理戸数を増やしても、事故が1件起きるだけでも現場を大きく圧迫しかねません。現場担当者が高齢者受け入れに慎重になるのは、サボりや事なかれ主義ではなく、自身の業務を守るための「合理的な防衛本能」と言えます。

③ 孤独死そのものよりも怖い「グレーゾーンの対応」

現場が真に恐怖を感じているのは、明確な「死」そのものよりも、むしろ「連絡が取れない」「入院した」「部屋で倒れているかもしれない」といったグレーゾーンの状態です。「アラートが出たが電話に出ない」「休日の夜間に異変の可能性が浮上した」といった際、誰が現地へ行き、どの権限で室内を確認するのか。明確な運用ルールと対応主体が存在しないことが、現場を疲弊させる最大の要因となっています。

3. 「死の恐怖」ではなく「運用の不在」が市場を止めている

オーナーや管理会社が恐れているものの本質を分解すると、それは「入居者が高齢であること」や「人が亡くなること」そのものではありません。

国土交通省の「人の死の告知に関するガイドライン」においても、自然死や日常の不慮の死については、原則として告知義務の対象外とされています。しかし、発見が遅れて特殊清掃や大規模リフォームが必要となった場合には告知が必要となる場合があり、物件の資産価値に大きな悪影響を及ぼします。※1

つまり、分水嶺は「死亡したかどうか」ではなく、「異変から発見までにどれだけの時間がかかったか」にあります。リスクの正体は「人間の死」ではなく、異変を捉え、確認し、事後処理を行う「運用の不在」に他なりません。

懸念されるリスクリスクの本質真の原因(何が不足しているか)
事故物件化・家賃下落発見が大幅に遅れることによる室内の損壊早期発見(異変検知と早期確認)の仕組みの不在
室内の長期ロック・残置物相続人捜索や契約解除手続きの停滞死後事務委任契約・法的枠組みの不備
原状回復・清掃費用の負担突発的な経済的損害の発生孤独死保険・費用補償の未組み込み

4. 「個人の頑張り」から「組織の仕組み」へ——現場に与えるべき3つの武器

この課題を解決するために「もっと高齢者に優しくしよう」「社会貢献のためにリスクを取ろう」と思うだけでは、状況は改善しません。必要なのは、現場担当者が丸腰で戦うのをやめ、組織として「安全に貸せる仕組み(インフラ)」を構築することです。

高齢者の受け入れを進めるには、「現場の負担」「法的な手続きの負担」「金銭的な負担」の3つに対処するインフラを、パッケージとして現場に提供する必要があります。

見守りの一次対応を担う専任スタッフのオフィスと、管理会社の担当者が本来業務に集中できる様子の写真イメージ

① 現場負担に対処する:安否確認と初期対応の外部化(BPO)

日常のアラート監視や一次電話確認を、専門組織へ委託する。これにより、担当者が一人で通知や確認を抱え込む負担を減らします。

② 法的負担に対処する:死後事務委任の整備

万が一の際にも、相続人捜索で部屋が長期間ロックされないよう、事前に死後事務委任(賃貸借契約の解除および残置物処理に関するモデル契約条項を組み込んだもの)を整備しておきます。※2

受任者の選び方や入居前の準備は、コラム「入居者が亡くなった後の対応は?──国のモデル契約条項から考える、契約解除・残置物処理への備え」で解説しています。

③ 金銭負担に対処する:孤独死保険等の導入

原状回復費用、遺品整理費用、家賃損失補償を保険によって担保し、オーナーの経済的損害を補償対象・限度額の範囲で軽減します。

5. 居住サポート住宅の開始と、行政・地域福祉との連携

制度的な観点からも、追い風は強まっています。2025年10月よりスタートした「居住サポート住宅」制度では、日常の安否確認や訪問による見守り、福祉サービスへのつなぎ体制を備えた賃貸住宅の居住安定援助計画を、福祉事務所設置自治体等が認定する仕組みが整いました。※3

地域包括支援や民生委員と連携し、高齢の入居者が安心して暮らす賃貸住宅の地域ネットワークの写真イメージ

これからの賃貸管理会社に求められるのは、単に「部屋を貸す」ことにとどまらず、地域福祉、社会福祉協議会、民生委員、居住支援法人と連携し、入居者の生活基盤を支えるネットワークのハブとなることです。

見守りシステムを通じて平時から入居者の生活リズムや支援状況を把握しておくことは、緊急時のスムーズな外部連携を可能にし、行政やオーナーからも選ばれる強固な管理ブランドの構築へとつながります。

6. 収益シミュレーション:今の空室を埋め、将来の稼働と収益を守る

高齢者を排除することは、一見するとリスクを回避しているように見えますが、実際には「空室の長期化と賃料下落」という確実な経営リスクを抱え込む結果となります。一方で、高齢者を受け入れるためには、見守りや保険、契約上の備えなどに費用がかかります。経営判断では、「受け入れるための費用」と「空室を短縮することで得られる収入」を比較することが大切です。

家賃7万円の空室1戸について、受け入れ対象を広げることで、仮に入居が3か月早まった場合を見てみましょう。

試算:空室が3か月早く埋まった場合(家賃7万円・比較期間12か月)

項目従来の募集で6か月後に入居対策を整え、高齢者も対象にして3か月後に入居
空室期間6か月3か月
比較期間内の家賃収入420,000円630,000円
管理料(5%)21,000円31,500円
高齢者受け入れの対策費用0円27,000円
オーナーの差引収入399,000円571,500円
オーナーの収入増加額—+172,500円
管理会社の管理料収入増加額—+10,500円
家賃収入は「月額家賃×入居月数」、対策費用は「月額3,000円×9か月」で計算。管理料率と対策費用は説明用の仮定です。募集費・修繕費・税金・初期契約費用等は含めていません。実際の成約時期や収益を保証するものではありません。

この例では、対策費用をオーナーが全額負担しても、最初の12か月で手元に残る収入は17万2,500円増えます。管理会社にも、1戸当たり1万500円の管理料増収が生まれます。

賃貸オーナーと管理会社の担当者が家賃収入と対策費用の収支シミュレーションを一緒に確認している写真イメージ

ただし、初年度の増収と長期の費用負担は分けて考える

空室短縮による増収は入居が早まることで生まれますが、見守りなどの月額費用は入居中ずっと続きます。月3,000円なら、入居から5年間で18万円、10年間で36万円です。初年度の収支改善だけを理由に、長期にわたる全額負担まで有利だとは判断できません。そこで、導入時には継続費用の分担まで決めておきます。

  • オーナーが負担する:空室対策と、資産の保全に必要な費用として位置づける。
  • 入居者が負担する:「安心サポート費」として合意のうえで負担してもらう。
  • 双方で分担する:月額費用を折半するなど、双方のメリットを踏まえて設計する。

すべての費用を一律に扱う必要はありません。各サービスの契約者・補償対象・支払条件を確認し、入居者にとっても家賃と合わせて無理なく支払える金額にすることが重要です。管理会社が費用を負担する場合も、管理料の増収だけで賄えるかを確認します。

本題は、高齢者の割合の変化に備えること

ただし、高齢者受け入れの経営的な意味は、「今ある空室が何か月早く埋まるか」だけではありません。もう一つ考えるべきなのは、5年後、10年後も、現在の入居戸数と収入を維持できるかという問題です。

地域の賃貸住宅に暮らす人たちの構成が変われば、管理会社が向き合う入居需要も変わります。単身高齢者の割合が高まる中、その層を受け入れないままでは、募集対象となる世帯の範囲が狭くなっていきます。他の層の獲得で補えなければ、入居戸数が減り、オーナーの家賃収入も、管理会社の管理料収入も減っていきます。

まずは、県内の民営借家に暮らす世帯のうち、65歳以上の単身世帯が占める割合を、自社の入居中の戸数に当てはめてみる。その戸数と、実際の受け入れ戸数を比較すれば、地域の入居実態に対する自社の現在地が見えてきます。さらに、地域の割合が5年後、10年後に変化した場合、今の入居戸数を維持するには、どの程度の高齢者受け入れを見込んでおくかを考えることができます。

高齢者を受け入れる態勢を今から整えることは、目の前の空室対策であると同時に、将来の稼働と収益を守るための備えです。そして、その態勢を持つことが、入居者とオーナーに選ばれる理由となり、新たな入居や管理受託につながる可能性があります。

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7. デナリ・コネレーションが提示する「見守りBPO」という解決策

私たちデナリ・コネレーションが目指しているのは、入居者にはプライバシーの保たれた安心な暮らしを提供しつつ、賃貸管理会社には無理な負担をかけない、持続可能な見守り体制を構築することです。

見守りを導入した後に、担当者がいつ出るか分からないアラートに常に気を張り、そのすべてを確認しなければならないという運用では、現場の負担が大きくなり、疲弊につながります。デナリ・コネレーションは、以下の組み合わせにより、この構造的課題を解決します。

賃貸住宅のコンセントに設置されたCO₂見守りセンサー「デナリ・ボッツ」と、専任スタッフによる電話確認の写真イメージ

高精度CO₂センサー「デナリ・ボッツ」

カメラやマイクを使わず、呼吸に由来する室内のCO₂濃度の変化から人の「存在」を把握します。設置環境や生活習慣に応じた波形を捉え、判断に疑義の生じにくい情報を提供します。

専任スタッフによる電話確認代行(見守りBPO)

アラート発報時、専任スタッフが対応時間内にデータを確認し、本人への電話確認などを通して本当に対応が必要なものだけに絞り込むことにより、現場担当者の業務負担を減らします。

確認結果の積層と共有

本人とのやり取りや不在事情を記録・蓄積し、次の見守りや関係機関との連携に活かす運用フローを提供します。

機器(ハード)と人による確認代行(BPO)が一体となることで、現場担当者は「通知を常に気にかけるストレス」から解放され、真に対応が必要なケースにのみ集中できるようになります。

8. おわりに:経営者が果たすべき決断

孤独死対策・高齢者受け入れの問題は、現場の担当者の努力や個人の思いやりに依存している限り、永遠に解決しません。

「高齢者を受け入れろ」と現場に命じるのではなく、「孤独死が起きても、早期発見と事後処理につなげる仕組みを整えた。だから安心してオーナーに提案してほしい」と言える“武器”を用意することこそが、経営層に求められる真の決断です。

高齢者をリスクとして遠ざける時代は終わりました。適切なテクノロジーと外部BPOの運用力を組み合わせ、安全に受け入れるインフラを整えること。それこそが、社会課題を解決しつつ、他社との圧倒的な差別化を図り、持続可能な賃貸管理経営につなげる、ひとつの具体的な道筋になります。


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出典・参考

※1 国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(2021年10月)|発表ページ

※2 国土交通省・法務省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」|発表ページ

※3 国土交通省 報道発表「居住サポート住宅情報提供システムの公開~10月1日より認定制度が始まります!」(改正住宅セーフティネット法・居住サポート住宅認定制度、2025年10月施行)|発表ページ